そう言って、弟は立ち上がる。
なにも言えずに口をつぐむ。
そんな私を見て弟はため息をつき、口を開いた。
そう言いながら、弟は私の頭を撫でる。
甘い声で囁かれ、思わず耳を押さえて後ずさる。
そんな私を見て、弟は可笑しそうに笑う。
そう言って私の頭をもう一度撫でてから、弟は部屋を出ていった。
弟が部屋を出ていってから、私は今自分が着ている服を見つめる。
...サイズ、こんなに違うんだ。
ちょっと前まではまったく一緒だったのに、今じゃこんなに差がついちゃってるんだね。
...ほんと、
ぽつりと呟く。
昔は身長も、服のサイズも一緒で、家でも外でも私の後ろをひっつき回っていたのに。
いつの間にか、私よりも前に立って、守ろうとしてくれて。
どんどん、たくましくなっていって。
時々すごく不安になる。
もう私は、弟の隣に立っていられなくなるんじゃないか、必要ないんじゃないか、って。
だって弟は、私がいなくてもちゃんとできる子に育ってるから。
逆に思う。
私がいるせいで、甘えたな性格もなおらないのかな、って。
私が一緒にいることで、弟にあるいろんな可能性を奪っているんじゃないか、って...。
そんなことを考えていると、弟が着替えを持ってきたらしく、部屋に戻ってくる。
私の曇った表情を見て気がついたのだろう、弟は少し心配そうな表情をしながら、私を見つめた。
私は自分が着ている弟の服をぎゅ、と掴みながら、口を開いた。
言い終えてから、顔を上げる。
それから弟の表情を見て、私は目を見開いた。
なにかに傷ついたような...そんな表情をしていたからだ。
宝石のように綺麗なオッドアイには、不安そうな光が瞬いている。
...それが、弟の望みというなら。
私はそれに応えよう。
そう言って、私は弟に笑いかけた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!