第552話

No.547
6,340
2021/07/04 11:47
あなた
なに?焦凍
轟焦凍
服なら俺が持ってくる
あなた
え?
轟焦凍
だから安心しろ







そう言って、弟は立ち上がる。







あなた
え、でも、悪いよ。やっぱり私が...
轟焦凍
その格好でか?
あなた
...







なにも言えずに口をつぐむ。





そんな私を見て弟はため息をつき、口を開いた。







轟焦凍
無理だろ、どう考えても。上は俺の服を着てるとはいえ、下は服着てねえだろ。そんな格好で歩かせるわけにはいかねえ







そう言いながら、弟は私の頭を撫でる。







轟焦凍
それに、こんな可愛いお前の姿、誰にも見せたくねえからな
あなた







甘い声で囁かれ、思わず耳を押さえて後ずさる。





そんな私を見て、弟は可笑しそうに笑う。







轟焦凍
じゃあ俺、着替え取ってくるな。少し待っててくれ
あなた
わ、わかった







そう言って私の頭をもう一度撫でてから、弟は部屋を出ていった。







あなた
...







弟が部屋を出ていってから、私は今自分が着ている服を見つめる。





...サイズ、こんなに違うんだ。





ちょっと前まではまったく一緒だったのに、今じゃこんなに差がついちゃってるんだね。





...ほんと、







あなた
大きくなったね...







ぽつりと呟く。





昔は身長も、服のサイズも一緒で、家でも外でも私の後ろをひっつき回っていたのに。





いつの間にか、私よりも前に立って、守ろうとしてくれて。





どんどん、たくましくなっていって。





時々すごく不安になる。





もう私は、弟の隣に立っていられなくなるんじゃないか、必要ないんじゃないか、って。





だって弟は、私がいなくてもちゃんとできる子に育ってるから。





逆に思う。





私がいるせいで、甘えたな性格もなおらないのかな、って。





私が一緒にいることで、弟にあるいろんな可能性を奪っているんじゃないか、って...。







轟焦凍
あなた、戻ったぞ...あなた?
あなた
!焦凍...







そんなことを考えていると、弟が着替えを持ってきたらしく、部屋に戻ってくる。





私の曇った表情を見て気がついたのだろう、弟は少し心配そうな表情をしながら、私を見つめた。







轟焦凍
どうした、なんかあったか?
あなた
いや...そういうわけじゃない、けど
轟焦凍
なんでもない、って表情じゃねえだろ。ちゃんと話してくれ
あなた
...うん







私は自分が着ている弟の服をぎゅ、と掴みながら、口を開いた。







あなた
焦凍は、なにに関しても私よりも何倍も上にいるでしょ?それで、私は焦凍の隣にいる意味があるのかな、って
轟焦凍
...
あなた
時々ね、すごく不安になるんだ。焦凍にある可能性を、私がいることで奪ってしまってるんじゃないか、って。それなら、私は焦凍と一緒にいない方がいいんじゃないかな、って...







言い終えてから、顔を上げる。





それから弟の表情を見て、私は目を見開いた。





なにかに傷ついたような...そんな表情をしていたからだ。







轟焦凍
そんなこと、言うな...
あなた
...
轟焦凍
俺は、お前と一緒にいたい。これは俺の望みなんだ、仕方なくとか、そんなんじゃねえ
あなた
...
轟焦凍
だからもう、そんなこと言わないでくれ
あなた
...うん







宝石のように綺麗なオッドアイには、不安そうな光が瞬いている。





...それが、弟の望みというなら。







あなた
わかった。ごめんね、こんなこと言って







私はそれに応えよう。





そう言って、私は弟に笑いかけた。

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