演習場に向かっている途中、弟に声をかけられる。
なにさ急に。
まあ確かに、庇ったことは間違いじゃないけどさ。
弟は私の言葉を聞くと、その場で立ち止まる。
反応からみて、戸惑っているのだろう。
弟はそう言うと、黙り込んでしまう。
うーん...変な意味で捉えてるのは間違いないね。
私は少し考えてから、口を開く。
弟は私の言葉に納得したのか、そう言って口元を緩める。
よく伝わったな今の言葉で。
...まあ、守ろうとしてくれたのはすごく嬉しいし、私も守りたいって思うよ。
私は周りに誰もいないことを確認してから、弟の名前を呼ぶ。
それからくいっ、とネクタイを引っ張ってこちらに引き寄せ、弟の頬にキスをした。
弟は私の行動に驚いたのか、声を漏らして目を見開く。
してやったり、だ。
弟はぱっ、と頬を赤らめると、素早く私から顔をそらす。
めっずらし、照れてる。
思わず笑うと、弟は少し不満そうに頬を膨らませた。
そこは即答なんだね。
てか近いよ。
ぐいっ、と顔を近づけて真剣に話す弟に対し、私は少し恥ずかしくなって顔をそらす。
冗談は休み休みに言ってくれよ、全く。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!