スマホの目覚ましがなりかけた瞬間、手刀で止める。
よし、勝った。
隣で穏やかに寝ている、弟の頬を軽く叩く。
相変わらず面が良い。
なんかムカつくな。
わけのわからん寝言言うな。
不服そうに顔をしかめ、寝返りをうつ。
と思ったら、腕を引っ張られて布団の中へ引きずりこまれた。
なにやってんだよ。
離れようと手足をばたつかせるが、怪力ゴリラには敵わない。
デジャブ。
のそりと起き上がり、くあ、とあくびをする。
寝癖やば。
昨日の夜持ってきた制服を、弟の顔面目掛けて投げつける。
見事にクリーンヒット。
ぽや〜、っとしている弟の腕を引っ張り、1階の共同スペースまで向かう。
そこには既に何人かが集まっていて、それぞれで朝食をとっていた。
パタパタと急ぎ足になりながら、朝食をとっているみんなにおはようと挨拶。
弟は眠そうにぽやっ、としているだけ。
もういっかいなんかぶつけてやろうかな。
お茶を飲もうとコップにそそいでいると、なにかがポフッ、と肩に乗っかってきた。
ちらりと横目で見れば、おめでたい紅白頭。
そこまでして気がついた。
周りの視線に。
女子たちのキラキラとした瞳が、私に向けられる。
まずい。
非常にまずい。
とにかく離れようとして、私は弟の頭に軽くゲンコツをくらわせた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!