そう言うと、弟は顔をこちらに向ける。
それから不思議そうな表情になり、軽く首をかしげた。
弟は目を大きく見開き、驚いた様子でこちらを凝視する。
先程までの荒々しい雰囲気は消え、いつもの弟に戻っていた。
けどこの感情は、きっと社会的に許されることのない感情だ。
なぜこの感情を抱いてしまったのかはわからない。
ひとつ確かなことは、弟は私をそういう意味で好いていて、私も弟を同じように好いている。
これだけは紛れもない事実だ。
私たちの場合は、恐らく近視相愛と呼ばれるものだろう。
でも、ほらね。
どんな感情にも、ちゃんと名前がついている。
今は異性だけじゃなくて、同性に恋心を抱くということもある。
近視相愛だって、似たようなものだ。
人間はいろんな感情があるからこそ、人間らしく生きられる。
捨てちゃえばいい感情なんて、存在しないんだ。
"私も同じ気持ちだから"
左手で弟の頬に触れると、弟はそのまま私の手を掴み、起き上がる。
そのまま引っ張られるようにして私も起き上がると、空いている右手で弟の頭を撫でてやる。
この感情は全部、ないがしろにするつもりだった。
でも今こうして弟が打ち明けてくれたから、ないがしろにするわけにもいかないよね。
これは言って正解だったのかな。
私の信頼性どんだけだよ。
弟は涙に濡れた目を、私に向けた。
"焦凍を選ぶに決まってるじゃん"
私はそう言って、弟に笑いかけた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。