第380話

No.378
8,985
2021/02/27 15:31
あなた
わかってたから、突き放さなかったんだよ







そう言うと、弟は顔をこちらに向ける。





それから不思議そうな表情になり、軽く首をかしげた。







轟焦凍
どういう意味だ...?
あなた
私も焦凍と同じ気持ちだから
轟焦凍







弟は目を大きく見開き、驚いた様子でこちらを凝視する。





先程までの荒々しい雰囲気は消え、いつもの弟に戻っていた。







あなた
焦凍は、私のことを恋愛対象としてみてるの?
轟焦凍
いや...そうじゃねえ。けど、姉さんやお母さんとはまた違う感情なんだ
あなた
なら私だって同じだよ







けどこの感情は、きっと社会的に許されることのない感情だ。





なぜこの感情を抱いてしまったのかはわからない。





ひとつ確かなことは、弟は私をそういう意味で好いていて、私も弟を同じように好いている。





これだけは紛れもない事実だ。







あなた
私たちはね、お互いが特別なだけ。抱いちゃダメな感情なんて、この世にないんだよ







私たちの場合は、恐らく近視相愛と呼ばれるものだろう。





でも、ほらね。





どんな感情にも、ちゃんと名前がついている。





今は異性だけじゃなくて、同性に恋心を抱くということもある。





近視相愛だって、似たようなものだ。





人間はいろんな感情があるからこそ、人間らしく生きられる。





捨てちゃえばいい感情なんて、存在しないんだ。







轟焦凍
...俺はこれからも、この"好き"の感情でお前を見ていてもいいのか?
あなた
うん
轟焦凍
これからもお前の隣に居ていいのか?
あなた
当たり前じゃん
轟焦凍
...キスとか、してもいいのか?
あなた
...ん、いいよ







"私も同じ気持ちだから"







あなた
だからさ、焦凍
轟焦凍
...
あなた
もう泣かないで







左手で弟の頬に触れると、弟はそのまま私の手を掴み、起き上がる。





そのまま引っ張られるようにして私も起き上がると、空いている右手で弟の頭を撫でてやる。







あなた
...言うつもり、なかったんだけどね







この感情は全部、ないがしろにするつもりだった。





でも今こうして弟が打ち明けてくれたから、ないがしろにするわけにもいかないよね。





これは言って正解だったのかな。







轟焦凍
そんなの、俺もだ
あなた
そっか
轟焦凍
言ったら、失望されて嫌われると思ってたから
あなた
ならないって







私の信頼性どんだけだよ。







あなた
でもね、お互いがいなくたって生きていけるんだよ。私も、焦凍も
轟焦凍
...
あなた
今の言葉の意味、わかる?
轟焦凍
...うん







弟は涙に濡れた目を、私に向けた。







轟焦凍
それでも俺が、一緒に生きていく相手を選ぶとしたら、お前なんだ。あなた
あなた
ん、そっか
轟焦凍
...あなたはどうなんだ?
あなた
そんなの、







"焦凍を選ぶに決まってるじゃん"







私はそう言って、弟に笑いかけた。

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