第99話

No.99 side轟焦凍
17,883
2020/09/28 14:20
冬美
焦凍、元気ないね








晩御飯を食べている途中、姉さんが心配そうな声色で言った。





思わず箸が止まる。







冬美
お蕎麦、もういらない?
轟焦凍
...いや、食べるよ








姉さんの作る蕎麦は美味しい。





だけど、何故か今日はなにも感じなかった。





決して不味いわけじゃない。





原因はわかっている。







冬美
やっぱり、あなたのこと?
轟焦凍








自分でもわかっていた。





ご飯はみんなで食べるから美味いんだ。





あなたが居ねえと、意味がない。







轟焦凍
ごめん、姉さん
冬美
どうして?
轟焦凍
俺、あなたを守れなかった...








あの日からずっと、罪悪感のようなものに襲われていた。





それと同時に敗北感と絶望感。





なんでもっと早く行動できなかった。





なんで、救けてやれなかったんだ。





あと少しで届きそうだった手を、掴めなかったんだ。





悔しくて情けない。







冬美
あのね、焦凍
轟焦凍
冬美
私、思うんだけどね。あなたならきっと大丈夫。逆に焦凍がそんな顔してたら、あなたが悲しむんじゃないかな
轟焦凍










"あんたは笑ってた方がいい"









いつだったか、あなたに言われた。





ガキの頃に俺がメンタルズタボロになってる時も、俺の笑顔が好きだと言ってくれた。







冬美
それに、焦凍が謝る必要なんてないよ。だから、そこまで思い詰めないでいいんだよ
轟焦凍
そう、か。...ありがとう、姉さん








笑顔、か。





今は何故か、昔のように笑えなくなった。





時々、あの頃に戻りたいなんて思う時がある。





だけど、そんなのは叶いっこない。





叶わない願いなんて持っていても、そんなの無駄なものに過ぎない。





だけど、ヒーローになりたいという夢は、絶対に叶えてみせる。





大切な人を、あなたを、守りたい。









***









晩飯を食べ、風呂に入る。






それらを済ませたあと、なんとなく縁側に向かった。





縁側に座り、涼む。





家のどこに居ても、思い出すのはあなたのことばかり。





こんなにも俺は、姉に甘えてばかりだったのか。





今更ながら自覚する。





俺はどこの誰よりも、姉を信頼している自信がある。





自分が一番近くに居た存在だと思っているからだ。





ああ、だめだ。





この時間帯になると、どうしてもあなたに甘えたくなってしまう。





学校にいる時は会話もあまりしない。





だけどその代わり、家ではブツブツと文句を言いながら甘えさせてくれる。





ガキの頃から全然変わってねえんだな、俺は。





自室に戻って布団に寝転がるが、昨日と同じような感じで中々寝付けない。





あなたは今頃、なにしてんだろう。





無事に帰ってきてほしい。





いや、自分で救けに行く。





自分で出来る限りのことをする。





みんなには否定されるだろうな。





だけど構わない。





あなたに、早く会いたい。

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