今日は学校がなくて、お休み。
そんな日の午後に共有スペースに行こうとすると、突然お茶子ちゃんたちに目隠しをされたのだ。
なにごとかとパニックになっている私などお構い無しに、女子たちは私を共有スペースまで強制連行。
共有スペースに着いたあとで目隠しを外してもらうと、そこに広がっていたのは豪華な料理や飾り付け。
そんな中で、ソファーには弟がちょこんと座っていて。
しかも変な三角の帽子を被ったまま。
どうやら弟も、私と同じようなことを男子たちにされたらしい。
そして私も強制的に座らされ、今に至るわけだ。
隣でジュースを飲んでいた響香ちゃんが苦笑する。
でも本当に、私は誕生日のことなんてどうでもいい日なんだ。
今まではお姉ちゃんにおめでとう、って言われて気がつくくらいだったんだから。
みんなみたいに祝ってもらえるなんて、そんなこと、全然なかったから。
誕生日プレゼントにもらったのか、弟は大量の蕎麦を抱えて口元を緩ませている。
誕生日プレゼントが蕎麦...。
まあ、変なものもらうよりマシか。
"かんぱい!!"
その声とともに、グラスの音が1年A組の寮内に響いた。
***
料理をたらふく食べて満足そうな表情を浮かべるお茶子ちゃん。
周りのみんなも同じような表情だ。
ふと時計を見ると、既に7時半をまわっていた。
結構続いてたんだね、このパーティ。
お皿やテーブルなどを片付け始めるみんなを見て、私も手伝おうと立ち上がる。
と、
声をかけられて、振り返る。
見れば、爆豪くんが私の後ろで仁王立ちしていた。
しばらくの沈黙のあとに、なにかを押し付けるようにして渡される。
慌てて受け取って見ると、渡されたのは可愛らしいブレスレットだった。
早速手首に付けて、爆豪くんの前に腕を突き出してみる。
ふいっ、と背中を向けて言う爆豪くんに、私は思わず笑った。
ぽつりと言ってそのまま背を向けて歩き出す爆豪くん。
あの爆豪くんが、誕生日を祝ってくれるなんて...!
いやそうじゃないでしょ今は。
少しだけ感動していたが、慌てて首を振って爆豪くんを追いかける。
呼びかければ、紅い瞳が私を捉える。
私はその瞳を見つめ、微笑んだ。
少しの間目を見開いてかたまっていた爆豪くんだが、再びそっぽを向いて歩いていった。
彼の耳が少し赤くなってたのは、触れないでおこう。
改めて手伝いに行こうとすると、三人にそう言われてキッチンから追い出された。
なんか悪いなぁ。
名前を呼ばれて振り向くと、すぐ近くに弟が立っていた。
たぶんこいつも私と同じ感じかな。
有無を言わさないまま強制連行。
私はずるずると引きずられるようにして、弟と部屋に向かう。
その際に、みんながガッツポーズを取っていたことなど知らずに。
部屋に着いてから、弟は大量の蕎麦が入った袋をどんと置く。
本当に蕎麦だらけだな...。
蕎麦の量の多さに少し呆れていると、弟は私の目の前に座った。
そして、
小さな箱を渡された。
なんだろ。
箱の中に入っていたのは、腕時計だった。
しかも結構可愛い。
腕時計から目を離さないままの私に、弟が不安そうに尋ねてくる。
そんな弟に、私は思わず口元を緩ませた。
嬉しそうに目を輝かせる弟を見て、私は笑う。
というより、
私はポケットに閉まっていた箱を取り出し、弟に渡す。
弟は驚いたようにそれを受け取り、中身を見る。
その中身は、
そう、腕時計だ。
しかも、弟がくれた私の腕時計と色違いのやつ。
なんだかおかしくなってきて、お互いに笑い合う。
そう言って再び笑い合う。
今までは無関心だったけど、こういう誕生日も悪くないかな。
お互いに祝いあって、プレゼントももらって。
これもきっと、私たちの"初めて"なんだ。
でもきっと、私たちが知らないことはまだたくさんある。
だったら今年は、その知らないことをもっと知っていこう。
...弟と一緒に。
今回の1月11日は、今までのどんな誕生日よりも特別な日だ。
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☆Happy birthday☆ 〜轟姉弟〜
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。