敵意をむき出しにしながらそう言う弟を見て、父が頷く。
私はそれを見て、不安になりながらも父の前に立った。
急にそう言った父に、私と弟は唖然とする。
怒り、憎しみ、悲哀。
いろんな負の感情が溢れ出てきて、なんだかどうでもよくなってきてしまう。
全部私が悪いんだから。
自慢の娘?私が?
父の言葉が信じられなかった。
それに私は、まだ許せていない。
お母さんと弟のこと。
言いながら、思わず涙が出そうになった。
だって、違うんだよ。
私が望んでいるのは、こんなことじゃない。
その言葉を聞いて、私たちは黙り込む。
やがて父を見つめていた弟が、首の後ろに手を当てて顔をそらす。
私も弟と同様に、目をそらす。
昔からそうだった。
個性が発動する前までは、普通に家族としてみんなと同じ話し方だったんだ。
けど失敗作だと言われてから、私は父に敬語で話すようになった。
そうじゃないと、話しかけても無視するだけだったから。
そう言ってから、私は父を見つめて口を開いた。
私は拳を作り、父を見上げたまま続ける。
言い終えた私を、父は静かに見つめていた。
私は小さく頷き、父から背を向ける。
それから、オールマイトたちがいるところに向かって歩き出した。
後ろを振り返ると、夜嵐くんが父と話しているのが見える。
...嫌い、って言ってたけど、ちゃんとわかってくれたみたいね。
オールマイトと士傑の先生がお互いに頭を下げたあと、私たちはバスに向かって歩き出す。
ふと立ち止まり、後ろを振り返る。
見えたのは、夜嵐くんが大きく手を振っている姿。
そして、父の大きな背中。
私、頑張るよ、お父さん。
私は前を向き、再び歩き始める。
そして、口元を緩ませた。
ちらりと弟を見ると、弟も同様に口元を緩ませているのがわかった。
顔を見合わせ、一緒になって笑う。
たぶん、考えたことは同じだろう。
私も、弟も。
そして父も。
お互いに歩み寄っているのは、確かだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。