第428話

No.425
7,848
2021/04/07 08:18
轟焦凍
...あなたになんかしたらただじゃおかねえからな







敵意をむき出しにしながらそう言う弟を見て、父が頷く。





私はそれを見て、不安になりながらも父の前に立った。







エンデヴァー
あなた、今まですまなかった
あなた







急にそう言った父に、私と弟は唖然とする。







あなた
ど、どうして謝るんですか...
エンデヴァー
お前には今まで、酷いことを繰り返してきたからだ
あなた
っ、なにを今更...!
エンデヴァー
本当にすまなかった
あなた
...もういいです。謝らないでください







怒り、憎しみ、悲哀。





いろんな負の感情が溢れ出てきて、なんだかどうでもよくなってきてしまう。







あなた
だったら私の方こそすみませんでした。お父さんの望む子になれなかったから
轟焦凍
!あなた、
あなた
いいの。焦凍はなにも言わないで







全部私が悪いんだから。







エンデヴァー
...ひとつだけ、いいか
あなた
エンデヴァー
お前も自慢の娘だ、あなた
あなた







自慢の娘?私が?






父の言葉が信じられなかった。







あなた
...私のことを失敗作、って言ってたあなたが、今更なにを言うんですか
エンデヴァー
あなた
そんなお世辞、私は望んでません







それに私は、まだ許せていない。





お母さんと弟のこと。







あなた
あなたが少しでも家族を変えようと変えようとしているのは、私もわかっています。ですが、私はあなたがしたこと、まだ許せていません
エンデヴァー
...そうか







言いながら、思わず涙が出そうになった。





だって、違うんだよ。





私が望んでいるのは、こんなことじゃない。







エンデヴァー
あなた、焦凍。ひとつだけ聞いてくれ
あなた
...
エンデヴァー
さっきも言ったが、お前たちは自慢の娘と息子だ。ならば俺も、お前たちが胸を張れるようなヒーローになろう
轟焦凍
...
エンデヴァー
父はNo.1ヒーロー...最も偉大な男であると







その言葉を聞いて、私たちは黙り込む。





やがて父を見つめていた弟が、首の後ろに手を当てて顔をそらす。






轟焦凍
勝手にしろよ...
あなた
...







私も弟と同様に、目をそらす。







エンデヴァー
あなた
あなた
...なんですか
エンデヴァー
その敬語をやめてほしい
あなた







昔からそうだった。





個性が発動する前までは、普通に家族としてみんなと同じ話し方だったんだ。





けど失敗作だと言われてから、私は父に敬語で話すようになった。





そうじゃないと、話しかけても無視するだけだったから。







エンデヴァー
お前も大事な家族の一員だ。だから敬語はやめて、冬美や夏雄のように普通に話してくれ
あなた
...わかったよ







そう言ってから、私は父を見つめて口を開いた。







あなた
今まで私や焦凍にしてきた扱い、仕打ち...。私はまだあなたのことが許せない。けど、







私は拳を作り、父を見上げたまま続ける。







あなた
それは今後のあなたの行動を見て決めることにする。そして、ひとつだけお願い。"私は自分の実力をあなたに認めてもらえるように頑張る"。ヒーローになりたいから頑張るのは当たり前だから言わない。だからこれからは、焦凍も、お姉ちゃんも、夏兄のことも...私のことも、ちゃんと見ていてほしいの。お父さん







言い終えた私を、父は静かに見つめていた。







エンデヴァー
...わかった。お前たちのことを、ずっと見ている
あなた
...







私は小さく頷き、父から背を向ける。





それから、オールマイトたちがいるところに向かって歩き出した。





後ろを振り返ると、夜嵐くんが父と話しているのが見える。





...嫌い、って言ってたけど、ちゃんとわかってくれたみたいね。







あなた
焦凍、爆豪くん。行こ
轟焦凍
!おう
爆豪勝己
わーっとるわ







オールマイトと士傑の先生がお互いに頭を下げたあと、私たちはバスに向かって歩き出す。





ふと立ち止まり、後ろを振り返る。





見えたのは、夜嵐くんが大きく手を振っている姿。





そして、父の大きな背中。







あなた
...







私、頑張るよ、お父さん。





私は前を向き、再び歩き始める。





そして、口元を緩ませた。





ちらりと弟を見ると、弟も同様に口元を緩ませているのがわかった。







あなた
どしたの焦凍、珍しく笑ってるじゃん
轟焦凍
あなたこそ







顔を見合わせ、一緒になって笑う。





たぶん、考えたことは同じだろう。





私も、弟も。





そして父も。





お互いに歩み寄っているのは、確かだ。

プリ小説オーディオドラマ