お風呂から上がって共有スペースに戻ると、急に上鳴くんが声をかけてきた。
びっくりするからやめてよ、もう。
あ、峰田くんもいたんだ。
というか、
引っ掻かれた傷...?
しばらく考えて、はっ、とした。
そうだ、私あの時、弟の背中引っ掻いちゃって...。
傷になってたんだ、あれ。
てことは、みんなにバレてる...?
ド直球に言われ、私は思わず戸惑う。
ちらりと周りを見ると、男子は興味津々、女子は赤面。
どうしよう、これ、知ってたら誤魔化し用がないよね...。
たぶん弟も同じようなこと聞かれたと思うけど、なんて答えたんだろう。
誤魔化したとは思うけど、どんなことを言ったのかは私にはわからない。
ここでお互いに話した内容が違ったら、ヤったことを肯定しているようなものだ。
誤魔化したことがバレてしまう。
どうしよう。
こういう時、弟ならなんて言うんだろ。
なんて考えていると、お風呂上がりの弟がタオルを首にかけたまま、共有スペースまで歩いてきた。
思わず目を向けると、弟も私に気がついたらしい。
お互いに目が合い、私はSOSを求める。
けどここで弟が乱入してきたら逆効果だ。
弟は上鳴くんと峰田くんを交互に見て、今の私の状況を察したらしい。
誰が見てもわかるくらいに狼狽えだした。
まあ、そりゃ焦るよね。
せめて口パクで...と思ったが、そうもいかないらしい。
だって、周りのみんなが私と弟を交互に見つめているのだから。
口パクで伝えようとしたら、すぐにバレてしまう。
弟は、どこか祈るような目で私を見つめている。
...仕方ない、弟が言いそうなことをとりあえず言ってみよう。
それでもし違ってたら、またなんとかして誤魔化そう。
そう思いながら、私は恐る恐る口を開いた。
爪で引っ掻かれたような傷だ、って言ってたから、弟が真っ先に思いつくものといえばこれだろう。
ど、どう...?
2人は私の言葉を聞くと、顔を見合わせる。
それから、はぁ、とため息をついた。
2人の会話を聞いて、私はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
もしかして、あってたの...?
よかった、なんとかなった...。
私は思わず、安堵の息をついた。、
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!