弟は私から体を離すと、そう言って立ち上がり、私に手を差し伸べる。
私は弟の手を借りて、立ち上がる。
教室に戻ると、中には誰もいなかった。
私と弟の席に、それぞれの鞄が置いてあるだけ。
鞄を持ちながら、弟に声をかける。
あんな初々しい感じで呼び出されただけなんだし、普通だったら放っておくだろう。
なのに、弟は来てくれた。
なんでわかったんだろ。
お前は野生動物か。
なんて思っていると、弟はクスリと笑う。
窓から差し込む夕日が、弟の横顔を照らす。
弟は目を伏せる。
長い睫毛が、瞳に影を落とした。
私はそう言って、笑いかける。
弟は驚いたようにぱちぱちと瞬きを繰り返す。
けど、少ししてふっ、と笑った。
教室を出て、校門を出る。
そこから私と弟は、寮へと歩く。
先程疑問だったことを聞いてみる。
なんであんなに怯えたような表情になったのか、知りたかったしね。
弟はなんでもないとでもいうように呟くと、先程言った言葉を口にした。
私は思わず弟をジト目で見つめた。
だってこいつ、ヒーロー志望だよね?
でも今の言ってること、ヴィランと一緒じゃんか。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。