寮に帰ると、すぐに緑谷くんがこちらに駆けてきた。
言っちゃ悪いけど、なんか子犬みたい。
みんなは私たちに気がつくと、わっ、と集まってくる。
なんともなかった、ってことはないんだけど...。
急に黙り込んだ私を見て、切島くんが声をかけてくる。
先程の行為が脳内で再生され、どんどん顔が熱くなっていくのがわかる。
やばいやばい、思い出しちゃダメだ。
そう思いながらなんとなく隣にいる弟を見て、私は思わず絶句した。
なんと、弟も同じように顔を真っ赤にさせていたからだ。
いつもはこんな表情、滅多に見せないのに...。
これにはさすがのみんなも驚いたらしく、目を見開いている。
みんなが不思議そうに問いかけてくる中、私と弟は無言。
だって、言えるわけないじゃん...。
いくらなんでも無理だよ...。
と、その時だった。
寮のドアが開いて、相澤先生が顔を覗かせたのは。
たぶん、今日のことだよね...。
相澤先生は私の言葉を聞いて頷くと、外へと出ていく。
それを見た私と弟も、みんなが不思議そうな表情をしている中、部屋に戻って上着を取りに行く。
それから、再び寮の外へと足を運んだ。
***
外へ出ると、相澤先生は近くのベンチに座って待ってくれていた。
私と弟もベンチの方へと歩いていき、腰を下ろす。
そう言う相澤先生の瞳は、ひどく真剣なものだった。
さすがとしか言いようがないよ、相澤先生。
生徒のこと、よく見てる証拠だよね。
だって私たち、まだなにも言ってないのに。
こんなに遅く帰ってきたのも、なにか事情がある、ってわかってくれているんだもの。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。