そのあとも、私は何度も悲鳴を上げて弟にしがみつくことを繰り返していた。
てかこいつ、こういうの嫌いじゃないのかよ。
前はびびりまくってたくせに。
苦手だ、ってことは知ってるから今更弁解しなくていいんだってば。
でもまあ、今は人だからってことで怖がってないのは本当みたい。
意地でも歩いてやる。
そんなことを意気込んでみるものの、やっぱり気が気じゃなくて...。
弟とは比べて怯えるばかりだ。
言われるがままに見てみると、赤ん坊くらいの小さな赤い手形が、壁や廊下を埋め尽くすようについていた。
私はぎゅう、と弟に思い切りしがみつく。
これ考えた人誰よ、いくらなんでも不気味すぎるんだけど。
引き返したい気持ちでいっぱいだけど、元の道も怖いからなぁ。
そう言われ、渋々頷く。
個性使ってるとかそんなんじゃなくて、もうただただ怖いだけじゃん。
ホラー映画とかに出てきそうだもの、ここ。
しばらく歩き続けた、その時だ。
突然声を上げた私を、弟は驚いたように見つめる。
そんな会話をしている間にも、そのなにかは天井から落ちてくる。
弟が身を屈め、目を凝らして落ちてきたものを見る。
疑問形で言われても...。
てか、なんで血が天井から落ちてくるのよ。
廊下を濡らすほどの血の大盤振る舞いに、思わず愕然とする。
が、その時、天井から血だらけの人がさかさま状態で降りてきた。
突然のことに驚き、私は悲鳴を上げて弟をその場に置いて走り出した。
なにあれなにあれなにあれ!!
だから怖いの苦手なのに!!
しばらく走ったところで、腕を掴まれる。
振り向けば、弟が少し息をきらしながら私を見つめていた。
涙目になっていたらしい。
弟はふっ、と眉を下げて笑うと、私の目じりに親指を当てて涙を拭う。
こんのぉ...許さん。
隣でクスクス笑う弟を見て、私は軽く頭を叩いてやったのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!