弟は安心したように、私を見て微笑む。
よかった、ほんとに元に戻れたんだ。
と、
突然、弟が目をまん丸に見開いた。
と思ったら、かあっ、と顔を真っ赤にさせて起き上がる。
そのまま慌てたようにタンスから一枚服を取り出すと、私に向かって投げてきた。
謎すぎる行動に、私はわけがわからず瞬きを繰り返す。
どうしたよ。
いやなんで怒ってるのさ。
疑問に思う私に気がついたのか、弟は目をこちらに向けてぼそりと言った。
自分の格好...?
言われるがままに、私は今の自分の格好を見てみる。
...そして、
声にならない声を上げた。
だって今の私の格好は、裸に等しかったのだから。
ヤオモモちゃんに作ってもらった服は、サイズが合わなくなったせいでビリビリに破けていた。
だけど下着は伸縮性なのか、破けることはなく、身につけていたままだった。
けど、今の状態は下着を身につけてるとはいえ、ほぼ裸だ。
弟がこんな反応をしたのは、そのせいだったんだ。
そう言って、弟から渡された服を慌てて着る。
渡されたのは、黒色のパーカー。
こいつ、こんなの持ってたんだ。
そんなことを頭の隅で考えながら、とにかく服を着る。
...めっちゃぶかぶかなんだけど。
そりゃそっか。
だって身長も、体格も、弟の方が上なんだもの。
そりゃぶかぶかになるよね。
弟は小さく返事をすると、恐る恐るといったようにこちらに振り向く。
はい?
どゆこと?
これはいわゆる、彼シャツというやつだろうか。
てかこんなことしてる場合じゃないんだよ、もうすぐで晩御飯の時間だから、普通に自分の服取りに行かないと。
でも、この状態で取りに行けるわけない。
だって上はダボダボでも着ていることには変わりないけど、下は下着以外なにも履いてないんだよ。
上だけ着た状態でもし誰かに見つかったら、単なる黒歴史じゃん。
そんな時、弟がしばらく間をあけて、私を呼んだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。