第91話

No.91 side轟焦凍
18,579
2020/12/22 03:51
冬美
焦凍、起きてる?








次の日の朝、姉さんの声で目が覚めた。





いつの間にか眠ってしまっていたようだ。





だけど、起きる気分にならない。







轟焦凍
...起きてる








布団に寝転がったまま、姉さんに聞こえる声で返事をする。







冬美
今朝のニュース、見たよ
轟焦凍








無意識に体が反応する。





おそらく、昨日の林間合宿のことが報道されているのだろう。







冬美
あなた、行方不明なんだってね...
轟焦凍
...
冬美
ヴィランに、誘拐されたんだよね...?








ひとつひとつの言葉を確かめるように。





姉さんは俺に聞こえる声で話す。





声が少し、震えていた。





自分の妹がヴィランに連れ去られたなんて知ったら、そりゃそうなるよな。







冬美
焦凍も、怖かったでしょ?でも無事に帰ってきてくれてよかった








姉さんの声を聞いて、やっぱりあの出来事は夢なんかじゃなかったと、今更ながらに実感する。







冬美
私このあと、ちょっと仕事あるの。だから行ってくるね。朝ごはん作って置いといたから、いつでも食べにおいで
轟焦凍
ありがとう、姉さん...








俺の声が聞こえたのか、姉さんはそのまま俺の部屋の前から立ち去る。





再び静かになった部屋で、ただただぼんやりする。





時刻は既に10時を回っている。





結局、もう一度寝る気にもなれず、俺は起き上がって部屋を出る。





姉さんは既に仕事に行ったようで、家は静まり返っていた。





しんとした廊下を歩き、朝飯を食べに向かう。







あなた
やっと起きた。遅いよ
轟焦凍







思わず後ろを振り返る。





が、そこには誰もいなかった。





当たり前だ。





あなたは、昨日の夜...。







轟焦凍
...っ








ぶんぶんと頭を振って、落ち着けと自分に言い聞かせる。





空耳だ。





夢ではないのだから。







あなた
ちんたらしすぎ。早く食べてよ、洗い物できないでしょ








居間に着いた瞬間、また声が聞こえる。





顔を上げれば、あなたがいつものように立っていて。





俺の方をじっ、と見つめていた。







あなた
ただでさえ起きるの遅いんだから、もう。ほら、さっさと食べる
轟焦凍
おう








息をするように返事をして、リビングに足を踏み入れる。





再び顔を上げてみれば、あなたの姿はなかった。





幻覚を見ていたのか、俺は。







轟焦凍
...ごめん、あなた








思わずその場にしゃがみ込む。





いつもなら、姉は既に起床していて、姉さんと朝ごはんを用意してくれていて。





いつものように俺に毒を吐き、文句を言って。





優しく笑いかけてくれて。







轟焦凍
くそっ!!なんで、なんであなたが...!






情けない。





今の自分の姿は、俺にとって一番情けなく思えた。

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