ぼそりとそう呟いた弟は、私にスマホの画面を見せてきた。
スマホの画面に表示されていたのは、『クソ親父』という文字。
...親父ならともかく、"クソ"はもう取ってあげなよ。
どうやらお父さんからの電話らしい。
そう言うと、弟はあからさまに嫌そうに顔を顰めた。
そんな嫌そうな顔しないの。
着信が鳴っているにも関わらず無視しようとする弟のスマホを奪い、スピーカーにして電話に出る。
と、すぐにお父さんの声が流れてきた。
弟は無表情かつ無言を貫く。
ブチッ。
お父さんが言い終わる前に、弟は無言で通話終了のボタンを押した。
あーあ。
それから盛大なため息をついた。
もう、顔顔。
イケメンが台無しだよ。
ガンギマリ状態の弟の頬っぺを両手で挟み、顔を近づける。
そうすれば、弟はいつものぽやぽやした表情に戻っていった。
過去の記憶が、鮮明に蘇ってくる。
それでも私は、首を振った。
私自身は、まだ許せない。
私だって、酷い仕打ちを受けてきたから。
正直今でも、お父さんとまともに話せないだろう。
どんな扱いをされても、親子だ、ってことには変わりないから。
そう言うと、弟は少しだけ笑った。
月をバックに微笑む弟は、とても綺麗だった。
一瞬だけ見惚れてしまい、慌てて首を横に振る。
お父さん可哀想。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!