第381話

No.379
9,061
2021/02/28 11:23
あなた
やっとお互いに素直になれたね







未だに私の腕の中で涙を流している弟を見ながら、私は言った。







あなた
ほら、もう泣かないの
轟焦凍
っ、だって...







子供か。





私は少し笑いながら、弟の頭を撫でる。







轟焦凍
...あなた
あなた
なあに?
轟焦凍
キスしたい







弟はそう言って、私を見つめる。





唐突だな。







あなた
...いいよ







少し間をあけて承諾すると、弟はすぐに唇を重ねてきた。





そのまま再び押し倒され、舌をねじ込まれる。







轟焦凍
んっ...
あなた
ん、ふぅ...っ







姉弟同士がやるべきことではない、キス。





でも、私たちにはもう関係ない。





そこら辺にいるカップルと同様なのだ。





本当の恋人同士にはなれないけれど。







轟焦凍
っ、はぁ...あなた
あなた
ん、なに...?







熱っぽいオッドアイが、私を捕らえる。







轟焦凍
今日、一緒に寝たい。ダメか?
あなた
だ、ダメじゃないけど







弟は私の言葉を聞くと、ふにゃりと笑う。





前からこいつのことはシスコンだとか思ってたけど、結構ズレてたな。





まあ、私も対して変わんないよね。







あなた
で、いつまで泣いてんのさ
轟焦凍
もう泣いてねえ
あなた
涙残ってるよ







弟の目じりに残っている涙を、人差し指で拭ってやる。





弟を泣かせてしまったのは、私のせいでもあるだろう。





...私がもっと早く伝えていれば、弟は泣かなくてよかったのかもしれない。







あなた
...ごめんね、焦凍
轟焦凍
なんであなたが謝るんだ
あなた
だって、私がもっと早く伝えていれば...







「あんたは泣かなくてよかったのに」







そう言い終える前に、突然、弟は私を抱きしめた。







轟焦凍
お互いの気持ちはわかったんだ。だから、お前が謝る必要なんてねえよ
あなた
...
轟焦凍
俺の方こそ悪かった。さっきは話も聞かずに押し倒したりして
あなた
...そんなの、







"私がもっと早く話しておけばよかったんだよ"





そう言いたいのを、ぐっ、と堪えた。







轟焦凍
なあ、あなた
あなた
なに?
轟焦凍







弟は私を呼ぶと、ずいっ、と小指をこちらに向けてきた。







轟焦凍
指切りしよう
あなた
なんで?
轟焦凍
お互いに、もう離れることがないように。あなたは俺が守るから
あなた
...







差し出された小指は、少し強ばっていた。





私とは違う、大きな男の子の手。





恐る恐る手を差し出し、小指を絡めた。







あなた
...ねぇ、焦凍
轟焦凍
なんだ?
あなた
あんたは私を守る、って言ってるけどさ。私も一応ヒーロー志望なんだよ?







だから、







あなた
私だって、焦凍のことを守るんだからね
轟焦凍







オッドアイが揺れる。





それを見て、私は微笑んだ。







あなた
もう泣かないんじゃなかったの?
轟焦凍
っ...泣いてねえ







弟は空いている片手で、乱暴に目元を拭う。





もう、そんなに擦ったらダメだよ。







あなた
昔も似たような指切りしたの、覚えてる?







そう問いかけると、弟はすぐに頷いた。







轟焦凍
ああ、覚えてる







以前やった指切りは、今と同じ内容だった。





一緒にヒーローになろうね、と。





その時に弟が言った言葉が、これだった。







轟焦凍
あなたは僕が守るからね、って







弟はそう言うと、恥ずかしかったのか、僅かに頬を赤らめた。





そういうところは、昔と全然変わってないんだよね。







あなた
ふふ、ちゃんと覚えてるじゃん
轟焦凍
言わせるなよ
あなた
はいはい。ほら、指切りするんでしょ?
轟焦凍
うん







お互いに小指を絡ませ、目を合わせる。





それから同時に口を開き、指切りをする。









"ゆーびきーりげーんまん、うそついたらはりのーます!指切った!"









言い終わってからもう一度顔を見合わせ、私たちは笑った。





結んだ約束を、今一度結ぼう。





この指切りの歌は少し恥ずかしいけれど、またこうして小指を絡め合うことはできるから。





もしかしたら、またつまづいたりしてしまうことがあるかもしれない。





でもきっと大丈夫。





どちらかが道を間違えそうになったら、そのどちらかが引っ張って連れ戻せばいいんだから。





私たちは誰よりも一番近くにいる存在であり、また誰よりも遠い存在だった。





これからも互いの対極にいるのだろう。





また対立したり、衝突するかもしれない。





なぜなら私たちは、永遠に似つくことのない双子だから。





悔しいことに、その違いに惹かれ合うのだから。







轟焦凍
これ、意外と恥ずかしいな...
あなた
そうだね。でも、恥ずかしさより嬉しさの方が大っきいかな
轟焦凍
偶然だな、俺もだ







仮免はまだ取れてないけれど、私たちならきっと大丈夫だ。





お互いに誰からも祝福されることのない感情を抱いているけど、それでも双子だということは変わらない。





普段通りでいればいいんだ。





お互いに隣を歩いていくことは、変わらないのだから。

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