未だに私の腕の中で涙を流している弟を見ながら、私は言った。
子供か。
私は少し笑いながら、弟の頭を撫でる。
弟はそう言って、私を見つめる。
唐突だな。
少し間をあけて承諾すると、弟はすぐに唇を重ねてきた。
そのまま再び押し倒され、舌をねじ込まれる。
姉弟同士がやるべきことではない、キス。
でも、私たちにはもう関係ない。
そこら辺にいるカップルと同様なのだ。
本当の恋人同士にはなれないけれど。
熱っぽいオッドアイが、私を捕らえる。
弟は私の言葉を聞くと、ふにゃりと笑う。
前からこいつのことはシスコンだとか思ってたけど、結構ズレてたな。
まあ、私も対して変わんないよね。
弟の目じりに残っている涙を、人差し指で拭ってやる。
弟を泣かせてしまったのは、私のせいでもあるだろう。
...私がもっと早く伝えていれば、弟は泣かなくてよかったのかもしれない。
「あんたは泣かなくてよかったのに」
そう言い終える前に、突然、弟は私を抱きしめた。
"私がもっと早く話しておけばよかったんだよ"
そう言いたいのを、ぐっ、と堪えた。
弟は私を呼ぶと、ずいっ、と小指をこちらに向けてきた。
差し出された小指は、少し強ばっていた。
私とは違う、大きな男の子の手。
恐る恐る手を差し出し、小指を絡めた。
だから、
オッドアイが揺れる。
それを見て、私は微笑んだ。
弟は空いている片手で、乱暴に目元を拭う。
もう、そんなに擦ったらダメだよ。
そう問いかけると、弟はすぐに頷いた。
以前やった指切りは、今と同じ内容だった。
一緒にヒーローになろうね、と。
その時に弟が言った言葉が、これだった。
弟はそう言うと、恥ずかしかったのか、僅かに頬を赤らめた。
そういうところは、昔と全然変わってないんだよね。
お互いに小指を絡ませ、目を合わせる。
それから同時に口を開き、指切りをする。
"ゆーびきーりげーんまん、うそついたらはりのーます!指切った!"
言い終わってからもう一度顔を見合わせ、私たちは笑った。
結んだ約束を、今一度結ぼう。
この指切りの歌は少し恥ずかしいけれど、またこうして小指を絡め合うことはできるから。
もしかしたら、またつまづいたりしてしまうことがあるかもしれない。
でもきっと大丈夫。
どちらかが道を間違えそうになったら、そのどちらかが引っ張って連れ戻せばいいんだから。
私たちは誰よりも一番近くにいる存在であり、また誰よりも遠い存在だった。
これからも互いの対極にいるのだろう。
また対立したり、衝突するかもしれない。
なぜなら私たちは、永遠に似つくことのない双子だから。
悔しいことに、その違いに惹かれ合うのだから。
仮免はまだ取れてないけれど、私たちならきっと大丈夫だ。
お互いに誰からも祝福されることのない感情を抱いているけど、それでも双子だということは変わらない。
普段通りでいればいいんだ。
お互いに隣を歩いていくことは、変わらないのだから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。