車の中で、相澤先生が口を開く。
まあ、確かに...。
先生、それ逆に疑ってる、って言ってるようなものじゃ...。
そう言いながら、私はちらりと自分の左手を見る。
私の左手には、誰かの手が重ねられている。
まあ、ひとりしかいないよね。
無論、隣に座っている弟の手だ。
さっきからずっと手の甲すりすりしてきたり、にぎにぎしてきたり、もうなにかしてないと落ち着かないのかなこいつは。
そりゃ今どきこんなことしてる高校生の姉弟なんていないし、先生もちょっと不思議に思うよね。
...まあ、あながち間違ってはないかも。
いけないことしてるし。
真顔でさらりと言ってのけた弟に、私は思わず声を上げる。
こいつ...とんでもない爆弾落としやがった。
穴があったら入りたい気分とはまさにこのこと。
なんてこと言うんだ、こいつは。
先生の言葉を聞いて、嬉しそうに私の手を握ってくる弟。
あーもう、やってくれたなこいつ。
ぺこぺこと謝る私の横で、弟はきょとんとしている。
「俺なんか変なこと言ったか?」とでもいいたげな表情で。
いくら素とはいえ、普通は言っちゃまずいことだ、ってわかるでしょーが。
この天然ぽやぽや野郎め。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。