父が腕を突き上げた格好のまま、ふらりと倒れかかる。
が、それをホークスが慌てて受け止め、地面に座らせている。
その時だった。
テレビから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
思わずテレビに顔を向ける。
そこに映っていた人物を見て、私は大きく目を見開いた。
荼毘は蒼炎を放ち、父やホークスを巻き込んで周りを取り囲む。
隣にいる弟も、焦っているような表情でテレビを見つめている。
"お前もこい、轟あなた"
以前、彼らに攫われた時のことを思い出す。
自然と身体が震える。
どうしてあいつが...。
身体の震えに気がついたのか、爆豪くんが静かにそう言って、私の頭を撫でた。
それのおかげか、少しだけ気持ちが落ち着く。
父を庇うようにして前に立ったホークスに、荼毘が飛びかかっていく。
ダメ、やめて...!
そう思った、その時だ。
突然、誰かが彼らの間に現れた。
プロヒーローのミルコだ。
それを見た荼毘が、小声でなにかを呟く。
かと思ったら、ごぽっ、となにかを吐き出し、その吐き出された物質に包まれた。
黒いなにかに包まれながら、次の瞬間、荼毘は声を上げた。
そう言った荼毘の目は、なにかを訴えるように見開かれていた。
ミルコがそう言って蹴りを入れるが、荼毘はそれよりも早く姿を消した。
荼毘が消えた瞬間、あれだけ周りを取り囲んで燃え盛っていた蒼炎が消え去り、なにごともなかったかのように戻る。
どうやら危機は、去ったようだ。
けど私は、先程の荼毘の言葉が離れなかった。
"死ぬんじゃねえぞ!!轟炎司!!"
なぜ彼は、わざわざ父を名前で呼んだのだろう。
なにか意図があるんだろうか。
結局いくら考えても、答えにはたどり着かなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!