腹筋を使うようにして、勢いよく起き上がる。
頭をフル回転させて、今自分がどのような状況におかれているのかを考える。
と、
隣からリカバリーガールの声が聞こえ、思い出した。
そうだ、授業でB組と対戦して、最後の最後であなたを庇って、それで...。
そこまで回想したところで、声をかけられて顔を上げる。
見れば、先程対戦した鉄哲が、ドアに手をかけてこちらを見つめていた。
引き分け...。
ぼんやりと鉄哲の言葉を聞いていたところで、はっ、とする。
先程からなにか足りないと思っていたのだ。
姉の姿が見当たらない。
余程重症だったのだろうか。
そんなことを思わず考えてしまった、が。
リカバリーガールがそう言いながら、シャッ、と隣のカーテンを開ける。
そこで見えたのは、ベッドの上で横たわる、姉の姿。
おそらく俺と同じように、あの後気を失ったのだろう。
思わず手を伸ばし、頬に触れる。
殴られて傷だらけになった頬を見て、ズキリと心が痛む。
ごめんな、俺がもっと早く動けていれば、お前に傷を作らないでやれたかもしれないのに。
俺が寝ていたベッドの近くで座っている、飯田が口を開いた。
意識がトぶ寸前、姉が俺の名を呼んでいたことも、抱きしめられたことも、全部。
確かに覚えていた。
"もっと非情に火攻めで来られたら打つ手なかったのに"
戦闘開始早々に言われた、骨抜の言葉を思い出す。
まず氷結で先手を取るのが癖になっている。
...いや、体に染み付いている。
昔からずっと、そうしてきたから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!