次の日の朝。
セットしておいた目覚ましを止めて、起き上がる。
...ああ、そうだ。
私、弟の部屋で寝たんだった。
隣を見れば、弟が穏やかな表情で眠っている。
さらさらとした髪に指を通せば、絡まることなく通り抜けていく。
あどけない寝顔を見て、思わず笑った。
どこか幼さを感じさせるその寝顔を見て、私は笑う。
毎回見る度に同じこと考えるんだよね。
と、
急に低い声で、弟が口を開いた。
あ、気づかれたパターン?
なんて思っていると、弟は目を閉じたまま口を動かした。
葛餅?
それって、お父さんが好きな和菓子じゃん。
よく見ると、弟は静かに寝息をたてて眠っている。
じゃあ、今のは寝言か。
てか、夢の中でお父さんとなにしてるの?
葛餅人質にしてどうするのさ。
妙にリアルな情景が思い浮かび、私は思わず笑ってしまった。
...さて、そろそろ起こさないとね。
そう呼びかければ、瞼がぴくりと動いて長いまつ毛が揺れる。
それからゆっくりと目を開け、澄んだ瞳で私を捉えた。
抱きつくな。
学校行くんだから。
ふわあ、と大きなあくびをしてから、弟は眠たそうに目を擦る。
...ほんとに赤ん坊みたい。
髪ボッサボサじゃん。
あちこちに寝癖ついちゃってるし。
...仕方ない、あの方法で覚醒させよう。
弟がこちらを向いた瞬間、私は弟の額に軽くキスをした。
離れて反応をうかがってみれば、ぽかんと口を開けて間抜けな表情をしている。
うん、作戦成功かな。
その後も弟はブツブツと小さな声で呟いていたが、私にはよく聞き取れなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!