制服に着替えてくる、と言って部屋を出ていった弟を見送り、私は弟が来るまで医務室の椅子に座っていた。
弟が無事で、ほんとによかった。
そう思いながら安心していると、ドタドタと足音が聞こえてくる。
と思ったら、ばん!と音をたててドアが開いた。
派手な音をたててドアを開けたのは、爆豪くんだった。
息が乱れているということは、相当急いで走ってきていたんだろう。
爆豪くんは私を見ると、ずかずかとこちらに歩み寄ってくる。
え、待って顔怖いよ。
私なにかしたっけ?
慌てて声をかけようとしたが、私の言葉は途中で途切れた。
爆豪くんが、私を正面から抱きしめたからだ。
急なことに、驚きを隠せない。
だって彼は、私の頭はよく撫でてくるけれど、抱きしめられたことなんて一度もなかったから。
私の言葉を遮るようにして、爆豪くんが怒鳴る。
急に怒鳴られて肩をびくつかせると、爆豪くんは私の肩を掴んだまま体を離す。
彼の表情を見て、私は目を見開いた。
爆豪くんが、今にも泣き出しそうな表情をしていたからだ。
怒鳴りながらも、ルビーのように赤い瞳には水膜が張っている。
唇をきゅ、と引き結び、本当に今にも泣いてしまいそうだった。
爆豪くんはそう言うと、私の肩を掴んだまま俯く。
爆豪くんにも、心配かけちゃったな...。
今の爆豪くんは、心配してくれてたから怒ってくれているんだ。
私は肩に置かれている爆豪くんの手に触れ、口を開く。
爆豪くんは顔を上げると、私を見つめる。
引き結んでいた唇を震わせて、泣くのを必死にこらえているのがわかる。
それを見た私は、爆豪くんの後頭部に手を回し、自分の方へと引き寄せた。
そう言うと、爆豪くんは私の言葉に答えるようにして、もう一度私を抱きしめた。
そんな彼の髪に触れ、優しく撫でてやる。
泣いてるじゃん、とは言えず。
仕方ない、ここは爆豪くんのプライドもあるだろうし、今は目を瞑ろう。
私の肩口に顔を埋め、背中に腕を回して抱きしめてくる爆豪くん。
そんな彼の頭を、私はしばらくの間撫で続けていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。