弟は顔を歪め、私の肩を掴んだ。
こんなに荒だった弟を見るのは久方ぶりだ。
いつもはこんなことないから。
そんなことを考えていると、突然、弟は私を横向きに抱き上げた。
そのまま既に敷かれていた布団の上に私を下ろし、押し倒してくる。
弟は悲鳴に近い声で叫ぶと、荒々しく唇を重ねてきた。
私は押し倒されたままの状態で抵抗できず、されるがままになる。
そう言って胸板を叩くと、意外とあっさり唇を離してくれる。
思わず黙り込むと、弟は薄く嗤った。
ぱたり。
なにかが私の頬に当たり、反射的に目を瞑る。
次に目を開けて真っ先に飛び込んできたものを見て、私は驚いて目を見開いた。
弟が泣いていたからだ。
弟の涙が、再び私の頬に落ちる。
そう言う弟は、まるで小さな子供のように見えた。
誰からも祝福されることのない、この感情。
わかっていた。
弟が私に向けてくる"好き"の感情は、明らかに家族に対する"好き"ではなかったから。
とうのとっくに、私はそれに気がついていたんだ。
それなのに、私は...。
そう言うと、弟はめいっぱいに涙を溜めた目で私を見つめる。
弟の目から再び、涙が零れ落ちる。
弟はそう叫ぶと、小さな子供のようにぽろぽろと涙を零す。
弟のいう私への"好き"という感情は、家族に対して向けるべきではないものだ。
けれど、恋愛的にみるのも難しい。
じゃあいったい、この感情はなんなのか。
それは私にだってわからない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。