校舎内を歩いていると、弟が私の服の袖を引っ張ってくる。
目線の先を見つめれば、普通科のC組が出している心霊迷宮があった。
え、あれ行くの...?
あんた怖いもの苦手じゃなかったのかよ。
でもなぁ、私はあんまりこういうの好まないし...。
正直行きたくないんだけど、弟がこんなにも期待の眼差しを向けてくるから断りずらい。
しばらく考えてから、私はため息をついた。
仕方ない、腹を括ろう。
よし、言質とった。
これでもし本物の幽霊が出てきてなにかされたとしても、弟が守ってくれるから問題ないや。
そんなことを勝手に考えながらひとりで納得し、弟と一緒にC組の方に歩いていく。
うわぁ、雰囲気がもう、やばそう...。
まだ入ってもないのに、そんなこと言えるわけないじゃん。
そう思いながら、私たちは心霊迷宮へと入っていった。
***
『五十年経った今でも、なぜか長男の死体だけ見つかっていない...。空き家のはずが、なぜか人がいる気配がすると近所の人たちは言う...』
そんなナレーションを聞きながら、私は既に恐怖でいっぱいだった。
五十年前、凄惨な一家殺人事件があったという設定のお屋敷は、細部までリアリティに凝っていた。
これ、ほんとに作ったやつなの、って疑うほどに。
歩くたびに軋む床。
壁の至る所には、子供が書いたような拙い落書き。
それらがまた、まがまがしく見えてくる。
なにも言わないかわりに、私はぎゅっ、と弟の腕にしがみつく。
脳内は恐怖で侵食されていて、なにも言えなかったんだ。
てか、真っ暗でなにも見えないよ、出口どこなの。
まじで早く出たいんだけど。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!