放課後。
私はさっさと帰り支度を済ませ、帰ろうとしていた。
...どうせ弟は勝手についてくるんだろうし、誘うか。
ちらりと後ろに目をやると、弟はなぜかそわそわとしていて、どこか落ち着かない様子だった。
ぱあっ、と花が咲いたように輝く弟の表情。
相変わらずわかりやすいな、こいつ。
随分嬉しそうにしてんな。
靴を履いて、玄関を出る。
と、
ぽつ、となにかが当たった。
空は暗く曇っている。
ぽつり、ぽつりと降っていた雨が、あっという間にザーザー降りになった。
降ってこないうちに、早く帰りたかったんだけどな。
生憎、傘を持ってきていない。
走って帰るしかないんだよなぁ。
正直嫌で仕方ない。
いや、実際そうなんだけどさ。
そんなにはっきり言わなくても良くない?
なんか傷つくんだけど。
どうやらこいつには、女心というものを刻みつけなければならないらしい。
天然だからって、なんでも言っていいわけじゃないんだからね。
私は渋々弟の手を握る。
弟の声とともに、なにかが頭にバサッ、と被せられる。
弟の制服だ。
わかんないけど、上着の部分っていうのかな。
その言葉に頷いた瞬間、弟は全力で走り出す。
相変わらず速いな。
なんて考えながら走っていると、朝に聞いた声が聞こえた。
思わず叫び、足を止めた。
驚いてぽかんとしている弟に目を向けず、私は声が聞こえた方に走り出した。
確かここに、ここに居たはずなんだ。
弟の言葉に答えず、私は声を頼りに探す。
そして、見つけた。
雨に打たれて鳴いている子猫の姿を。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!