第567話

No.562
6,308
2021/07/11 02:56
あなた
緑谷くん、飯田くん。ありがとね
緑谷出久
え、なにが?
飯田天哉
どうかしたのかい?あなたくん







急にお礼を言った私を、二人は不思議そうに見つめてくる。





まあ、それもそうだよね。





なんの前触れもなくお礼を言われて、不思議そうな表情をしない人はいないか。







あなた
二人はいつも、焦凍と仲良くしてくれてるでしょ?
飯田天哉
まあ、友達だからな
緑谷出久
うん
あなた
だからだよ







私は弟の頭を撫でながら、言葉を続ける。







あなた
焦凍ね、家のこともあって、小学生の頃から友達とか、そういうのできなくてね。中学生になってからは、その...いじめとか、そういうのも受けてて、ずっとひとりだったんだ
緑谷出久
え、いじめ?轟くんが?
飯田天哉
轟くんは過去に、いじめを受けていたのか?







その言葉に頷くと、二人は顔を見合わせる。







あなた
中学生の時なんだけどね。この子、周りのことに無関心で、誰に対しても心を開かなかったの。話しかけてくる人全員を睨んで、キツい口調で突っぱねて...。雄英に入って最初の頃を見てきた貴方たちなら、わかると思うんだけど







そう言うと、二人は当時の弟を思い出したのか、僅かに頷く。







あなた
勉強もできて、運動もできて...全てにおいてエリートで、プロヒーローの息子で...。たぶん、みんなは気に食わなかったんだろうね。当時の焦凍は、結構暗めの性格だったのもあったから...。たったそれだけの小さな理由で、みんなはこの子のことをいじめてた







緑谷くんと飯田くんは、黙って私の話を聞いている。







あなた
いじめの内容は、シカトするとか、そんな生ぬるいものじゃなかった。教科書とかノートは絵の具でぐちゃぐちゃにされて、筆記用具は全部バラバラにされて...。でも自分には力がなくて、ただ見ていることしかできなかった







私は助けてもらったのに、と。





そう言うと、緑谷くんが口を開いた。







緑谷出久
轟さんも、いじめを受けてたの?
あなた
うん。でもその時は、焦凍が助けてくれたんだ







今でも、あの時を思い出す。







あなた
私も、助けようとしたよ。でも、力になれなかった。この子はそれでもいい、って言って、ずっとひとりで頑張ってた。どんな酷いことをされても、表情には全然出さなくて、平気な様子で毎日を過ごしてて...。でも、なにもしてあげられなかったこと、すごく後悔してる







私は弟の髪を撫でながら、緑谷くんと飯田くんを見つめた。

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