林間合宿から家に帰ったあと、姉さんが真っ先に声をかけてくる。
隣にいない、片割れの姉。
それに気がついたのか、姉さんは俺に問いかけた。
俺は一方的にそう言い、自分の部屋に向かう。
部屋に戻って荷物を放り出し、布団に倒れ込んだ。
布団に倒れ込んで寝ようとしても、頭の中はあなたのことばかり。
絶対守る、って言ったくせに。
守れてねえじゃねえか。
あんなに怯えていたあなたを見たのは、いつぶりだっただろうか。
あの時俺が、爆豪を掴めていたら。
もっと早く動けていれば。
あなたがヴィランに連れ去られることは、なかったかもしれない。
倦怠感は感じるのに、よくわからない息苦しさと僅かな空腹感で寝付けない。
その状態のまま、真っ暗な部屋の中でひとり、布団に転がったまま。
こんなにも無意味な時間の潰し方はない。
ただただぼんやりと天井を眺め、無意識に昔の記憶をたどっていた。
朝から夜まで一日中、毎日毎日片割れの姉と二人、家の敷地内を飽きもせずに遊び回って。
腹が減ったら同じ飯を食べて。
眠くなったら同じ布団で寝て。
親父の訓練も、二人で一緒にしごかれて。
退屈なんて言葉を知らなかった。
"しょうと、あっち行こう!"
"しょうと、見てみて。面白いの見つけた!"
"しょうと!早く早く!"
なんにも知らなくて、なにもできなくて。
そんな俺の手を引いてたくさんの世界を見せてくれたのは、いつでも片割れの姉だった。
姉がいれば、俺はなんだってできた。
二人一緒なら、なんでも。
だけどその姉は、今はいない。
いつの間にか目じりに溜まっていた雫が、頬を伝って流れ落ちた。
なんで泣いてんだ。
今泣きたいはずなのは、あなただ。
昔からなんでもかんでも溜め込んで。
ろくに人に頼ることなんて、できなかった。
それが、姉の唯一の悪いところだと思う。
心配かけたくないと無理をし、いつも笑顔を絶やさない。
だけど、俺はわかっていた。
何度かわからないが、姉が自室に閉じこもって泣いているのを見たことがある。
我慢し続けて、自分の気持ちをおさえこむ。
そんなことばかり続けていれば、いずれ感情は爆発する。
それでも姉は、笑顔を絶やすことはなかった。
困ってる奴や、泣いている奴に声をかけて、手を差し伸べて。
そんな姿を一番近くで見てきた俺にとって、姉はヒーローだった。
俺はまた、姉に守られたのか。
あなた、お前はどこにいるんだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!