第90話

No.90 side轟焦凍
19,840
2020/09/24 08:28
冬美
おかえり。焦凍、あなた...どうしたの?
轟焦凍
...








林間合宿から家に帰ったあと、姉さんが真っ先に声をかけてくる。







冬美
あなたは、あなたはどうしたの?








隣にいない、片割れの姉。





それに気がついたのか、姉さんは俺に問いかけた。







冬美
焦凍?
轟焦凍
...悪ぃ、姉さん。今日はもう寝る
冬美
え、あ、うん。おやすみ...








俺は一方的にそう言い、自分の部屋に向かう。





部屋に戻って荷物を放り出し、布団に倒れ込んだ。







轟焦凍
...








布団に倒れ込んで寝ようとしても、頭の中はあなたのことばかり。





絶対守る、って言ったくせに。





守れてねえじゃねえか。







轟焦凍
...なんでだよ、くそっ








あんなに怯えていたあなたを見たのは、いつぶりだっただろうか。





あの時俺が、爆豪を掴めていたら。





もっと早く動けていれば。





あなたがヴィランに連れ去られることは、なかったかもしれない。







轟焦凍
わけわかんねえ、っ








倦怠感は感じるのに、よくわからない息苦しさと僅かな空腹感で寝付けない。





その状態のまま、真っ暗な部屋の中でひとり、布団に転がったまま。





こんなにも無意味な時間の潰し方はない。







轟焦凍
...。








ただただぼんやりと天井を眺め、無意識に昔の記憶をたどっていた。





朝から夜まで一日中、毎日毎日片割れの姉と二人、家の敷地内を飽きもせずに遊び回って。





腹が減ったら同じ飯を食べて。





眠くなったら同じ布団で寝て。





親父の訓練も、二人で一緒にしごかれて。





退屈なんて言葉を知らなかった。









"しょうと、あっち行こう!"





"しょうと、見てみて。面白いの見つけた!"





"しょうと!早く早く!"









なんにも知らなくて、なにもできなくて。





そんな俺の手を引いてたくさんの世界を見せてくれたのは、いつでも片割れの姉だった。





姉がいれば、俺はなんだってできた。





二人一緒なら、なんでも。





だけどその姉は、今はいない。







轟焦凍
っ.....!








いつの間にか目じりに溜まっていた雫が、頬を伝って流れ落ちた。





なんで泣いてんだ。





今泣きたいはずなのは、あなただ。





昔からなんでもかんでも溜め込んで。





ろくに人に頼ることなんて、できなかった。





それが、姉の唯一の悪いところだと思う。





心配かけたくないと無理をし、いつも笑顔を絶やさない。





だけど、俺はわかっていた。





何度かわからないが、姉が自室に閉じこもって泣いているのを見たことがある。





我慢し続けて、自分の気持ちをおさえこむ。





そんなことばかり続けていれば、いずれ感情は爆発する。





それでも姉は、笑顔を絶やすことはなかった。





困ってる奴や、泣いている奴に声をかけて、手を差し伸べて。





そんな姿を一番近くで見てきた俺にとって、姉はヒーローだった。





俺はまた、姉に守られたのか。







轟焦凍
...夢なら覚めてくれ、








あなた、お前はどこにいるんだ。

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