クレープ屋を出て、弟と帰路を歩く。
今日は快晴。
昨日の雨が嘘みたい。
昼も蕎麦、夜も蕎麦。
野菜とれよ。
使う野菜はどうしよう。
そんなことを考えて歩いていると、
弟が誰かとぶつかった。
ぶつかった男性は弟に対して、必死に謝る。
今のは弟が前を見ていなかったせいだし、この人はなにも悪くないんだけど。
なんでこんな必死に謝ってんだろ。
そうじゃない、って、どういうこと?
思わず反応してしまったけど、今思えばどうでもいいよねこれ。
今大事なのは、
今大事なのは、弟にどんな個性がかかってしまったのかということだ。
私の問いかけに、男性は少し言いづらそうにしている。
どんな個性なんだ、いったい。
ちょ、待て待て待て。
キス魔?
キスマ?
しかも異性とじゃなきゃ意味がない?
思考が追いつかないんだけど。
聞きながら、私は気が遠くなりそうになった。
100回もキスなんて...。
誰かにさせるわけにもいかないしさ。
どうしよう。
なんとか謝るのを辞めてもらったあと、弟にどんな症状が出るのか、それを解く条件はなんなのか。
男性はもう一度私に話してくれ、去っていった。
弟はどこか眠そうな表情で、ぼーっ、と私を見つめる。
あ、こりゃ重症だわ。
早く帰らないと。
生返事をした弟の腕を引っ張って、私は寮へと帰りを急いだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!