一佳ちゃんは個性の大拳で、置かれた板をバキバキと割っていく。
それから拳を観客席に向かって突き出し、息を吐いてポーズを決めた。
なんとも彼女らしいパフォーマンスだ。
観客席は大盛り上がりだ。
パフォーマンスを終えて舞台裏に戻ってきた彼女に、そう声をかける。
今は絢爛崎先輩のパフォーマンス中だ。
まあ、うん、すごい。
とにかく派手なの。
絢爛崎先輩は、確かサポート科だったかな。
なんかすごい物造ってきたな...。
ガシャンガシャンと機械音が鳴り響く中で、実行委員の人がこちらの方に駆けてきた。
いよいよだ。
そう思うと、体中に緊張が走った。
思わず足が震えそうになる。
が、そんな時、私の両肩にそれぞれ手が置かれた。
波動先輩と、一佳ちゃんだ。
目を合わせれば、二人はにっこり笑いかけてくれる。
そうだよね、二人の言う通りだ。
全力でパフォーマンスをして、全力で楽しめばいいだけなんだ。
と、実行委員の人が顔を出した。
行かなくちゃ。
私は二人に向かってもう一度頭を下げると、指定された場所にスタンバイする。
そのアナウンスを聞いて、観客席からいろいろな声が聞こえる。
ほとんどは歓声だが、一部は少し驚いたような、戸惑っているような、そんな声。
その声の正体は、1年A組のみんな。
まあ、無理もないよね。
緑谷くん以外には、誰にも言ってなかったんだから。
私はその様子に少し笑ってから、舞台へと踏み出した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。