みんなから少し離れた場所へと連れていかれ、そっ、と降ろされる。
私は自力で座ることすらできず、壁にもたれかかった。
弟は右手を私に翳し、温度を調節しながら冷やし始める。
私の言葉に、弟は無言で首を横に振る。
以前のヒーロー基礎学でも、私は火力を上げすぎてキャパオーバーを起こした。
そして今、二度目のキャパオーバー。
二の舞だ。
また迷惑かけちゃった。
私は黙って頷くことしかできなかった。
前に約束したのに、守れてないじゃんか。
弟のおかげで徐々に回復し、朦朧としていた意識もはっきりとし始める。
それでも弟は冷やすことをやめず、その場を離れなかった。
以前リカバリーガールが言っていたように、疲労のせい倒れてしまうのもあるかもしれない。
けどキャパオーバーに関しては、一気に火力を上げすぎたせいだと思っている。
普通に炎を使ってる時は、そんなこと一度も起きたことはないのだから。
弟は少し不満気な表情を見せる。
嫌いなのはわかるけどさ。
そんなに嫌そうな顔しないの。
私は少し考えたあと、口を開いた。
幼い頃、燈矢兄さんが私に一度だけ見せてくれた技。
それが、赫灼熱拳だった。
燈矢兄さんの青々と燃える蒼炎は、とにかく綺麗だった。
そんな技を、私もいつか出せるようになりたい。
だから使った。
正直なところ、私は父よりも、兄に憧れたから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。