第357話

No.355
8,711
2021/01/28 08:56
少し強ばった手が、髪に触れる。





それに気づいて身じろぐと、一瞬手が離れる。





が、反応がないことを確認したのか、もう一度私の髪に触れた。





髪を撫でる手付きは優しくて、どこか懐かしささえ感じる。





気持ちいい、もっと撫でてほしい。





でも今目を開ければ、きっとこの手は離れていってしまう。





うとうとしながら、私は目を閉じたままされるがままになる。







???
頑張ったんだな







「お疲れ様」







聞き覚えのあるテノールが聞こえたかと思うと、優しい手付きで私の頭を撫でてくる。





と思ったら、額に柔らかいものが触れた。





それに驚いて、思わず目を開ける。







轟焦凍







目を開けると、弟の顔がドアップで映る。







轟焦凍
起きたか







なにごともなかったかのように私から離れると、弟は椅子から立ち上がる。







轟焦凍
ちゃんと眠れたか?
あなた
あ、うん
轟焦凍
そっか







そう言いながら、どこからか救急箱を持ってくると、弟は再び椅子に座る。







あなた
今日の講習、もう終わったの?
轟焦凍
ああ。結構前に終わってるぞ







てことは結構寝てたんだね、私。





...いや、ちょっと待って。







あなた
ねぇ焦凍、今何時?
轟焦凍
6時過ぎてるな







私は思わずがっくりと肩を落とした。





だってバスがぁ...。





バスの時間がとっくに過ぎちゃってるんだよ。





次のバスって確か、7時くらいだった気がする。





てことは寮に帰ったら晩御飯の時間とっくに過ぎちゃってるよね、どうしよう。







あなた
...
轟焦凍
バスの時間なら心配いらねえぞ。あと1時間くらい待てばいいんだからな







フォローになってるようで、なってないような...。





まあいいか。







轟焦凍
悪ぃんだが、一旦起きれるか?
あなた
うん。どうかした?
轟焦凍
手当てする







手当て?







轟焦凍
顔とか腕とか、擦り傷すげぇことになってるから
あなた
え、ほんと?
轟焦凍
おう







まじか、顔に傷あんまり作りたくないのに。





でも仮免講習はスパルタだもの、仕方ないか。








轟焦凍
自分じゃ顔手当てできねえだろ?だから俺がやる
あなた
まあ、いいけど






よく見たら弟も顔が傷だらけだ。





あちこちに湿布や絆創膏が綺麗に貼られている。





てか、こいつってこんなに綺麗に貼れるっけ?





自分じゃできない、って言ってたけど、誰かにやってもらったのかな。





と、







爆豪勝己
てめぇは引っ込んどけクソ舐めプ!!







そんな声とともに、勢いよくドアが開けられる。





乱暴にドアを開けて部屋に入ってきたのは、爆豪くんだった。

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