少し強ばった手が、髪に触れる。
それに気づいて身じろぐと、一瞬手が離れる。
が、反応がないことを確認したのか、もう一度私の髪に触れた。
髪を撫でる手付きは優しくて、どこか懐かしささえ感じる。
気持ちいい、もっと撫でてほしい。
でも今目を開ければ、きっとこの手は離れていってしまう。
うとうとしながら、私は目を閉じたままされるがままになる。
「お疲れ様」
聞き覚えのあるテノールが聞こえたかと思うと、優しい手付きで私の頭を撫でてくる。
と思ったら、額に柔らかいものが触れた。
それに驚いて、思わず目を開ける。
目を開けると、弟の顔がドアップで映る。
なにごともなかったかのように私から離れると、弟は椅子から立ち上がる。
そう言いながら、どこからか救急箱を持ってくると、弟は再び椅子に座る。
てことは結構寝てたんだね、私。
...いや、ちょっと待って。
私は思わずがっくりと肩を落とした。
だってバスがぁ...。
バスの時間がとっくに過ぎちゃってるんだよ。
次のバスって確か、7時くらいだった気がする。
てことは寮に帰ったら晩御飯の時間とっくに過ぎちゃってるよね、どうしよう。
フォローになってるようで、なってないような...。
まあいいか。
手当て?
まじか、顔に傷あんまり作りたくないのに。
でも仮免講習はスパルタだもの、仕方ないか。
よく見たら弟も顔が傷だらけだ。
あちこちに湿布や絆創膏が綺麗に貼られている。
てか、こいつってこんなに綺麗に貼れるっけ?
自分じゃできない、って言ってたけど、誰かにやってもらったのかな。
と、
そんな声とともに、勢いよくドアが開けられる。
乱暴にドアを開けて部屋に入ってきたのは、爆豪くんだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。