第429話

No.426 side轟焦凍
8,307
2021/04/07 10:31
その日の夜のことだった。





共有スペースのソファーに座って読書をしている俺の隣で、姉がうとうとと眠そうにしていたのは。







轟焦凍
あなた、眠ぃのか?
あなた
いや...大丈夫
轟焦凍
絶対大丈夫じゃないだろ、それ







こういう時の姉は、だいたいいつも強がる癖がある。





素直に言えばいいのに。





そう思いながら小さくため息をつき、姉の体を自分の方に引き寄せる。





俺の左肩に頭を置いた姉は、むにゃむにゃと眠たそうに口を動かした。







轟焦凍
少し寝てろよ。ちゃんと起こすから
あなた
ん...ありがと







そう言うや否や、あっさり寝息をたて始める。





体が冷えるのを防ぐために、少しだけ左の個性を使って体を温めてやる。





たぶん、今日の仮免講習の疲れも相まっていたんだろう。





姉がこういう場所で寝落ちするなんて、滅多にないことだから。





俺は姉の頭をひと撫でしてから、再度本を読み始めた。









***









姉が眠ってから15分程たった頃だ。







上鳴電気
なになに、姫寝てんの!?
切島鋭児郎
珍しいな
瀬呂範太
ほえ〜








上鳴たちが話しかけてきたのは。







轟焦凍
ああ、疲れたみてえなんだ。喋るのはいいが、少し静かにしてもらってもいいか?
切島鋭児郎
おう!任しとけ!
上鳴電気
切島声デカいって







と、瀬呂が姉をまじまじと見つめながら口を開いた。







瀬呂範太
しっかし改めて見るとさ、姫って綺麗な顔立ちしてるよな〜
上鳴電気
わかるわぁ。轟もイケメンだしさ、さすが双子、って感じ







それを聞いて、思わず口元を緩ませる。





自分自身に関しては特に無関心だが、姉のことを褒められるとなぜか自分まで嬉しくなる。





確かに姉は可愛い。





けど、寝顔はあんまり見せたくなかったんだがな。





なんて思いながら本を読んでいると、突然、上鳴が声を上げた。







上鳴電気
あ、おい轟!
轟焦凍
どうした上鳴。あんまり騒ぐとあなたが...
切島鋭児郎
そういう場合じゃねえって轟!姫をよく見ろ!







あなたをよく見ろ...?






というか、なんで上鳴たちはそんなに焦ってんだ?





彼らの反応にきょとんとしていると、ぐずっ、という鼻をすする音が隣から聞こえた。







轟焦凍







隣を見て、思わず目を見開く。





肩にもたれて眠っている姉が、ぼろぼろと大粒の涙を零していたからだ。





なんで泣いてんだ...。







上鳴電気
これ起こした方が良くね!?
切島鋭児郎
だ、だよな!!なあ轟、姫起こせそうか!?
轟焦凍
あ、ああ







目の前でパニックになっている3人に見守られながら、姉の肩を揺さぶる。





なぜ泣いているのかはわからないが、とにかく起こさないと。







轟焦凍
あなた、起きろ。あなたってば







頬をぺちぺちと軽く叩いて言葉をかける。





それを何度か繰り返していれば、姉はゆっくりと涙に濡れた目を開けた。

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