その日の夜のことだった。
共有スペースのソファーに座って読書をしている俺の隣で、姉がうとうとと眠そうにしていたのは。
こういう時の姉は、だいたいいつも強がる癖がある。
素直に言えばいいのに。
そう思いながら小さくため息をつき、姉の体を自分の方に引き寄せる。
俺の左肩に頭を置いた姉は、むにゃむにゃと眠たそうに口を動かした。
そう言うや否や、あっさり寝息をたて始める。
体が冷えるのを防ぐために、少しだけ左の個性を使って体を温めてやる。
たぶん、今日の仮免講習の疲れも相まっていたんだろう。
姉がこういう場所で寝落ちするなんて、滅多にないことだから。
俺は姉の頭をひと撫でしてから、再度本を読み始めた。
***
姉が眠ってから15分程たった頃だ。
上鳴たちが話しかけてきたのは。
と、瀬呂が姉をまじまじと見つめながら口を開いた。
それを聞いて、思わず口元を緩ませる。
自分自身に関しては特に無関心だが、姉のことを褒められるとなぜか自分まで嬉しくなる。
確かに姉は可愛い。
けど、寝顔はあんまり見せたくなかったんだがな。
なんて思いながら本を読んでいると、突然、上鳴が声を上げた。
あなたをよく見ろ...?
というか、なんで上鳴たちはそんなに焦ってんだ?
彼らの反応にきょとんとしていると、ぐずっ、という鼻をすする音が隣から聞こえた。
隣を見て、思わず目を見開く。
肩にもたれて眠っている姉が、ぼろぼろと大粒の涙を零していたからだ。
なんで泣いてんだ...。
目の前でパニックになっている3人に見守られながら、姉の肩を揺さぶる。
なぜ泣いているのかはわからないが、とにかく起こさないと。
頬をぺちぺちと軽く叩いて言葉をかける。
それを何度か繰り返していれば、姉はゆっくりと涙に濡れた目を開けた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。