弟が襖から、ひょっこりと顔を覗かせる。
入っていいなんて一言も言ってないんだけど。
明日からいよいよ寮生活。
私たちはそのために、部屋の荷物を整理していた。
寮かあ。
ちょっと楽しみかも。
私は頷き、弟と縁側に向かった。
***
私はそう言って、軽く伸びる。
やっぱりいいな、ここ。
そう思ったら、少し寂しい気持ちになる。
今までずっと暮らしてきた家から離れて生活するとなると、楽しみな気持ち半分、不安な気持ちが半分という感じだ。
ちょっと心配だ。
たぶんこれ、お父さんが聞いたらめっちゃ怒ると思うよ。
それか泣くかのどっちかだね。
弟に対して、お父さん結構甘いとこあるからなあ。
変なとこで親バカなんだよね。
ま、弟には全く伝わってないだろうけど。
は?
いや、確かに涼しいんだけども。
なんで膝枕...。
これ、まさか寮でもやれとか言わないよね。
やったとしたら見つかる確率100%だよ、たぶん。
ま、さすがに言ってこないか。
....そうであると信じたい、うん。
弟の髪質が良いおかげで、膝がちくちくと痛むことはない。
ただ、少しくすぐったい。
弟は仰向けになって、私を見上げる。
私と目が合うと、嬉しそうに笑った。
胴に腕を回し、ぎゅう、と抱きついてくる弟。
一瞬私の頭の中で、コアラになった弟の姿が浮かんだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!