学校が終わり、放課後。
私は弟と一緒に、以前行ったクレープ屋に足を運んでいた。
約束したからね。
珍しい。
イチゴのクレープ頼むなんて。
絶対ありえないと思ってた。
さっきの沈黙はなにさ。
イチゴのクレープ二つ、と頼み、出来上がるのを待つ。
男二人でこんな可愛いお店入って、クレープ食べてたの...。
切島くん、恥ずかしかっただろうなあ。
弟のことだから、その時はなんの躊躇いもなかったんだろうな。
出来上がったクレープを受け取り、ひとつを弟に渡す。
ひとつのテーブルに対して向かい合って座り、クレープをひとかじり。
ん、美味しい。
なんで同じクレープにしたにも関わらず、ひとくちくれ、なんだよ。
味一緒じゃん。
なんて思いながら、弟の口元にクレープを持っていってやる。
弟はそれを、かぷり。
小さく齧った。
嬉しそうに口元を緩ませた弟に、思わず尋ねる。
弟は穏やかな目で、私を見つめていた。
オッドアイを細め、弟は優しく笑う。
私は何も言えず、ぽかんと口を開けていた。
急な弟の笑顔が、少し衝撃だったから。
弟の声で我に返り、私はなんでもないと言ってクレープにかぶりつく。
イチゴの酸味と、クリームの甘さが絶妙なバランスを醸し出している。
美味ァ。
言い終わる前に、弟が人差し指で、私の口元に付いているであろうクリームを拭った。
あれ、これデジャブ...?
そんなことを考えていると、弟は指に付いたクリームをぺろり。
なんか、うん。
こいつ、こんなに色気(?)あるやつだったっけ?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!