タキシードの裾をつまみながら、弟はぽやっ、とした表情で言った。
白のタキシードが似合う人って、たぶん中々いないと思うんだよね。
それを着こなせる弟、って...。
うーん、不思議だ。
なんで写真撮影?
きょとんとしていると、弟が不思議そうな表情で問いかけてきた。
そんなこと、一言も言われてないんだけど。
てか、写真撮影するの?
写真撮られるの、あんまり好きじゃないんだけどな。
ま、せっかくこうしてドレスを着られたわけだし、記念になるからいいか。
ぱちん、と手を合わせて、店員さんは目を輝かせる。
なんか可愛いかも、この店員さん。
親近感みたいなの湧いてくるよ。
だから彼氏じゃないんですってば。
てか、あんたも否定しなさいよ。
すたすたと歩いていく弟に対し、私は渋々ついていく。
やっぱ歩きづらいな、ドレスって。
そんなことを思いながら歩いていると、
弟が私に手を差し出してきた。
え、なに?
なんで?
新郎?花嫁?
なに言ってんだこいつ。
ぼそりと呟いた弟は、次の瞬間、私を横向きに抱き上げた。
いや、なんでこんなところでお姫様抱っこするんだよ。
状況的にやばいでしょ、てか恥ずかしい。
弟はクスリと笑う。
その状態のまま、そんな柔らかい表情で微笑むなや。
一瞬ドキッとしたけど、きっと気のせいだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。