第608話

No.603
6,062
2021/08/07 14:41
冬美
もしもし、あなた?元気にしてる?







夜。





私は外に出て、お姉ちゃんと電話をしていた。





話すのはかなり久しぶりだ。







あなた
私は元気だよ。お姉ちゃんたちは?
冬美
元気だよ。私も、夏もお父さんもね
あなた
そっか







それを聞いて安心する。





ちょっと心配だったけど、元気ならよかった。







冬美
ねぇ、あなた
あなた
なあに?
冬美
今日のヒーロービルボードチャート、見た?
あなた
...見たよ







少し間をあけて答えると、お姉ちゃんは「そっか」と呟く。







冬美
お父さんにとっては念願のNo.1だね
あなた
そうだね...あの、お姉ちゃん
冬美
なあに?
あなた
その、お母さんは、どうしてるの...?







お父さんがNo.1だと発表されてから、ずっと気になっていたことを口にしてみる。





もう伝えたんだろうか。





あと、しばらく会っていないからどうしているのか、単純に気になる。





具合が悪くなったりしてないだろうか、元気にしているだろうか、などなど。





聞きたいことは山ほどあった。







冬美
お母さんも元気だよ。あなたと焦凍に会えないのは寂しいけど、手紙でやり取りできるから嬉しい、って言ってたよ
あなた
!そっか







その言葉を聞いて、思わず口元が緩む。





お母さんに会いたいな。





もう随分会ってないんだもの。





よし、仮免取ったら、弟も連れて会いに行こう。





手紙で話せない分、直接会って話したいから。







あなた
お父さんがNo.1ヒーローになったこと、お母さんは知ってるの?
冬美
ううん、まだ知らないと思うよ。そのことに関しては、まだ言わないつもりでいるの
あなた
そうなんだ、
冬美
まあ、すぐにわかることだと思うんだけどね
あなた
うん







と、







轟焦凍
おい
あなた
ひゃっ







突然耳元で聞き慣れたテノールボイスが響き、私は声を上げる。







轟焦凍
さっきから誰と話してんだ







慌てて振り向くと、いつの間にか弟が私のすぐ後ろに立っていた。





ズボンのポケットに手を突っ込み、不満そうな表情をして私を見つめている。







冬美
あなた、どうしたの?大丈夫?
あなた
だ、大丈夫大丈夫!なんにもないよ!
轟焦凍
なにが大丈夫なんだ







な、なんでそんなに怒ってるのさ。





弟の剣幕におされ、私は思わず後ずさる。





が、弟はそんな私に構わず詰め寄ってきて、私のスマホを奪った。







あなた
あ、ちょっと!
轟焦凍
誰だ。あんた







あーもう、知らないからね。





と思った瞬間、電話越しにお姉ちゃんの声が聞こえてくる。







冬美
あ、もしかして焦凍?
轟焦凍
え、ね、姉さん...?
冬美
久しぶり〜!ところで、なんか怒ってたの?
轟焦凍
あ、いや、今のは、その...







弟は電話相手がお姉ちゃんだとわかると、羞恥からか一気に顔を赤くした。





そんな弟を、私はジト目で見つめる。







轟焦凍
わ、悪ぃ、あなた、姉さん...
冬美
え、ちょっと、大丈夫?ほんとになにかあったの?
あなた
大丈夫だよお姉ちゃん。焦凍はヤキモチ妬いただけだから
冬美
や、ヤキモチ?
轟焦凍
あ、おいバカ!







ぶわあっ、と火が出そうなくらいに顔を真っ赤にした弟を見て、私は思わず笑う。





電話越しに聞こえてくるお姉ちゃんの声は、不思議そうに「どうしたの?」と聞いてくるばかりだった。

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