第596話

No.591 side轟焦凍
7,129
2021/07/25 13:39
轟焦凍
......。







今日の出来事が、脳内に鮮明に蘇ってくる。





昼休み、たまたま普通科の教室近くを通った時に言われたひと言が。







『あれ、ヒーロー科の轟焦凍じゃね?』





『は?誰?』





『ほら、体育祭でえげつない氷使ってたやつだよ』





『へぇ...。うわっ、左やべぇな』





『やべぇっつーより...』







轟焦凍
..."気持ち悪い"、か







思わず呟いて、布団の上に寝転がった。





左の火傷に関して、こういうことは言われ慣れている、はずだ。





じくじくと痛む火傷の痕を押さえる。





今日のような雨の日は、火傷の痕が酷く痛む。





中学の時も、同じこと言われた、っけか。





昔はよくこの痕が嫌で掻きむしることが多くて、よく姉に止められたものだ。





しばらくしてから、姉に心配をかけないようにと掻きむしるのを止めたはずだった。





でも、







轟焦凍
やっぱり、気持ち悪ぃよな...







そう呟いて、火傷に触れる。





少したってから、不意になにかが爪に付着したような気がして、部屋の電気をつけて確認する。







轟焦凍
あ...







爪に付着したものは血だった。





どうやら無意識に掻きむしっていたらしい。





全く気がつかなかったうえに、痛みもなにも感じなかった。





鏡を見てみると、自分の左側には痛々しい掻きむしった傷が残ってしまっている。





こんなんじゃ、姉に顔向けできねえ...。





不意に、放課後の教室でみた夢が脳内で再生された。







"あなたみたいな左側が醜い人を好きになるわけないでしょう?"







夢の中の姉は、確かにそう言った。





冷たい眼差しで、俺を見つめて。





...そうか、そうだよな。





こんな醜いやつ、誰が好きになるんだ。





そんなの、最初からわかりきっていたはずのことだ。





姉は優しすぎるだけで、ほんとは...。





そこまで考えた時、自室のドアがノックされた。







あなた
焦凍、起きてる?







ノックのあとに聞こえてきたのは、愛しい姉の声。





反射的にドアに駆け寄り、慌てて開ける。





そこにいたのは、まぎれもない、姉の姿。







轟焦凍
あなた、なん







"なんで?"





そう言いかけたが、その言葉は姉が俺の両頬に触れてきたことにより途切れてしまう。







あなた
どうしたの、これ
轟焦凍
こ、これ...は、
あなた
自分でやったの?
轟焦凍
...







怒られる、引かれる。





嫌われる。





そんな負の感情が出てきて、彼女の手を解いて傷に手を添える。







轟焦凍
ご、ごめ...っ、嫌わ...
あなた
嫌うわけないよ
轟焦凍







俺の言葉に被せるようにして、姉はそう言葉を紡ぐ。





驚いて顔を上げれば、姉はさも当たり前かのような表情をうかべ、こちらを見つめていた。

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