教室に入ってから、弟が問いかけてきた。
ちなみに教室には、私たち以外誰もいない。
お父さんにアカウント教えたなんて言えるわけないじゃん。
絶対怒るでしょ。
と、弟のスマホが通知を知らせる音をたてた。
なんか、嫌な予感が...。
弟は自分のスマホを見て、無言になる。
その目が、どんどん冷めたものになっていく。
まさか...。
私はいてもたってもいられなくなって、弟のスマホを覗き込んだ。
そこには、
"時間あるか?"
"返事を待つ"
思った通り、父からのメッセージだった。
これ以上は隠しても無駄だろう。
そう判断した私は、少し間をあけて頷いた。
とたん、弟は盛大なため息をつく。
利用した、って...。
だってお父さんが頼んでも、あんたは絶対断るでしょーが。
そう思っていると、再び弟のスマホが音をたてる。
"焦凍"
"元気か話"
"話を"
弟は無言でスマホの画面を見つめたまま、動かない。
どうやら返信するかどうか葛藤しているようだ。
結局返信せずに無言でスマホを仕舞ったのを見て、思わず声を上げる。
弟はスマホを仕舞うと、じっ、とこちらを見つめてくる。
と思ったら、
突然、唇を合わせられた。
驚いて目を丸くする私をよそに、弟は舌をいれてくる。
ぐっ、と胸板を押して離れようとするが、弟は離れるなといわんばかりに、手を私の後頭部に回して押さえつけてくる。
息が続かなくなって力なく胸元を叩けば、弟はやっと唇を離してくれる。
そのまま私の唇をぺろりと舐めると、身体を離した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!