第557話

No.552
6,328
2021/07/04 22:24
あなた
焦凍!?







突然ぼろぼろと涙を流し始めたことに驚き、私は思わず声を上げる。







轟焦凍
いや、っ、やだぁ...な...で







嫌だと何度も繰り返しながら、弟は首を横に振る。





その姿は、まるでなにかを拒絶しているようだった。





なにに嫌がっているのかはわからない。





急なことに困惑しつつも、次に続く言葉を待った。







轟焦凍
やだ、やだぁ、っ、おいて...っ、いかないで...っ







しゃくりあげながら、弟はなにかを掴もうとするように、必死に手を伸ばす。





何度も空を切るその手を、思わず握りしめた。







あなた
焦凍、私はここにいるよ。どこにも行かないから。だから泣かないで







空いている片手で頭を何度も撫で、涙でぐしょぐしょになっている顔を拭ってやる。





けど、その顔が晴れることはなかった。





そんなに泣いたら、余計に熱上がっちゃうよ、頭痛も酷くなっちゃうよ。





嫌だ嫌だと泣きじゃくるその姿は、ぐずる子供のようで、話し方もどこか幼い。





涙で顔をぐしょぐしょに濡らしながら、行かないでと繰り返すその姿は酷く、胸が苦しくなった。





自分でも起きているのか、寝ているのかわからないのだろう。





虚ろな目のまま、ぼろぼろと涙を流し続ける弟。





呼吸をするたびに、喉がひゅーひゅーと妙な音をたてている。







轟焦凍
も、っ、やだぁ...おれから、なにも...とらないで、っ







恐らく熱に侵された頭では、なにも考えられないのだろう。





きっと自分でも、その涙の止め方を知らないのだろう。





きっとその手は、誰かの温もりを探してさ迷っているのだろう。





ねぇ焦凍、お願い。





つらくなったらちゃんと言ってよ、私みたいにひとりになろうとしないで。





今は昔と違って、仲間もたくさんいるのだから。





もっと、頼ってほしい。





下手くそでもいい、少しずつでいいから、私もあなたが抱えてる荷物を、一緒に背負いたいから。







あなた
焦凍、私を見て







弟の頬を優しく包み、目を合わせる。





今まで焦点が合っていなかった目がこちらを見たのを確認してから、私は言葉を続ける。







あなた
私はどこにもいかない。大丈夫だよ
轟焦凍
...
あなた
大丈夫、大丈夫...







大丈夫だと何度も繰り返しながら、私は弟を優しく抱きしめる。





そのままあやすように背中を優しく叩いてやれば、弟は一筋の涙を落とし、安心したように目を閉じた。

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