前の話
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調理場で、コップを洗っていたところだった。
突然目が痛くなり、思わず声を上げる。
急になんだろ。
睫毛とか入っちゃったのかな。
鏡とかあったら見れるんだけど、生憎持ってないし...。
目を押さえていると、弟がひょっこりと調理場に顔を覗かせた。
少し嬉しそうに声を上げたかと思えば、今度は心配そうに言いながら歩いてくる。
弟はそれを聞くと、私の肩を掴んで自分の方へと身体を向けさせる。
お互いに向き合っている状態で食い入るように見つめられ、いたたまれなくなる。
有無を言わせぬ口調で言われ、私は渋々手を退かす。
弟は私の右頬に手をあてると、じいっ、と私を見つめる。
弟はそう言いながら、ぐっ、と顔を近づけてくる。
さすがに近くないか...?
本来なら目をそらしたいところだけど、今はその目を見られているからなにもできない。
心臓がうるさい。
弟の息が鼻や唇にかかり、徐々に顔が熱くなっていくのがわかる。
近い、近いよ...!
思わず弟の服をぎゅ、と掴む。
そう言えば、弟はなぜか驚いたように目を見開く。
なによその反応は。
と、
弟が突然、私にキスを落としてきた。
急なことに驚いて、私は思わず弟の胸板を押す。
弟は特になにも気にしていない様子で謝ってくるが、全然反省していないようだ。
今のこれ、みんな見てないよね...?
そう思いながらそっ、と調理場からみんなを見ると、こちらには気がついていないようで、それぞれのおしゃべりに夢中だった。
私はそう言いながら、再度弟に向き直った。
みんながそんなことを話しているなど知らずに。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。