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第1話

No.602
6,081
2021/08/07 10:21
あなた
痛、っ







調理場で、コップを洗っていたところだった。





突然目が痛くなり、思わず声を上げる。





急になんだろ。





睫毛とか入っちゃったのかな。





鏡とかあったら見れるんだけど、生憎持ってないし...。







轟焦凍
お、あなた...どうした?







目を押さえていると、弟がひょっこりと調理場に顔を覗かせた。





少し嬉しそうに声を上げたかと思えば、今度は心配そうに言いながら歩いてくる。








轟焦凍
どした?なんかあったのか?
あなた
いや、そういうんじゃないけど...
轟焦凍
目ぇ痛えのか?
あなた
...うん、少しね







弟はそれを聞くと、私の肩を掴んで自分の方へと身体を向けさせる。





お互いに向き合っている状態で食い入るように見つめられ、いたたまれなくなる。







あなた
な、に...?
轟焦凍
手ぇ退けろ。俺が見てやるから
あなた
これくらい大丈夫だよ、自分でできるから
轟焦凍
いいから早くしろ
あなた
...わかったよ







有無を言わせぬ口調で言われ、私は渋々手を退かす。





弟は私の右頬に手をあてると、じいっ、と私を見つめる。







轟焦凍
動くなよ。じっ、としてろ
あなた
うん、
轟焦凍
すぐ取ってやるからな







弟はそう言いながら、ぐっ、と顔を近づけてくる。





さすがに近くないか...?





本来なら目をそらしたいところだけど、今はその目を見られているからなにもできない。





心臓がうるさい。





弟の息が鼻や唇にかかり、徐々に顔が熱くなっていくのがわかる。





近い、近いよ...!





思わず弟の服をぎゅ、と掴む。







轟焦凍
あなた...?
あなた
...ッ、は、はやくして







そう言えば、弟はなぜか驚いたように目を見開く。





なによその反応は。





と、







轟焦凍
あなた
ん、っ!?







弟が突然、私にキスを落としてきた。





急なことに驚いて、私は思わず弟の胸板を押す。







あなた
な、なにするのよ
轟焦凍
え?
あなた
え?じゃないよ。なんで急にキスなんか...
轟焦凍
してほしかったんじゃねえのか?
あなた
は!?そんなわけないでしょ!
轟焦凍
違ぇのか、悪ぃ







弟は特になにも気にしていない様子で謝ってくるが、全然反省していないようだ。





今のこれ、みんな見てないよね...?





そう思いながらそっ、と調理場からみんなを見ると、こちらには気がついていないようで、それぞれのおしゃべりに夢中だった。







あなた
もう...いいからはやく取ってよ
轟焦凍
おう







私はそう言いながら、再度弟に向き直った。







上鳴電気
なあ、今轟と姫、キスしてなかった?
瀬呂範太
ばっか声デケェよ上鳴!
芦戸三奈
瀬呂だって声でかいじゃん
切島鋭児郎
相変わらず仲良いな〜
麗日お茶子
その次元超えとるんとちゃうかな







みんながそんなことを話しているなど知らずに。

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