目元に残っている涙を拭いながらそう言うと、弟は力なく頷く。
が、
弟はそう言って、私を見上げてくる。
まあ、気持ちはわかるけど...。
弟はなにか言いたげに、口をもごもごさせている。
どうしたよ。
そう言って顔を覗き込んでやれば、弟は私を見て口を開いた。
だからそんな切ない表情しないの。
すり、と頬を撫でてやると、弟は気持ちよさそうに目を細める。
差し出された左手をきゅ、と握れば、弟は嬉しそうに微笑む。
空いている右手で額に張りついている前髪を退けてやると、弟はまた右手に頬ずりしてくる。
猫のように擦り寄ってくる弟を見て、私は思わず笑う。
すりすりと頬ずりしながら、弟は甘えるように猫なで声を出す。
でれでれじゃんか。
弟はぼそりとそう言って、私の手を握る。
小さな子供がおねだりをするように。
結構言うの恥ずかしいんだからね、私は。
あんたは息をするように言ってるかもしれないけど、私は違うんだからね。
まあそう言われると思ってたけども。
私は小さくため息をついてから、口元を緩める。
なんだかんだいって結局甘やかしてる自分も、どうかしちゃってるよね。
そう言ってふにゃりと笑う弟に、私もつられて笑う。
まったく、この甘えんぼはいつになったらなおるのかな。
...でもまあ、甘えてこなくなったらなったで、少し寂しくなるな。
そんなことを考えながら、私は弟が眠るまで、ずっと手を握っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!