みんなと別れてから、私と弟は駅に向かって歩いていた。
あーあ、見たかったのになあ。
弟はそう言うけど、本心なのかどうかはわからない。
だってポーカーフェイスのまんまだし。
さっきの話のせいか、弟の元気がないように見える。
...よし、
なんか美味しいものでも食べたら、多少は忘れられるかもしれない。
単純にそう思った。
少し戸惑っている様子の弟の手を掴んで、私はさっさと歩き始める。
弟はなんの抵抗もなく、私についてくる。
なんとなくそんな予感はしてたけども。
やっぱり食べたことなかったんだ。
じゃあ尚更だ。
少しでもいいから、弟にはいろんな景色を知ってほしい。
家に閉じこもって鍛錬ばかりの日々もいいけど、少しは出かけないと。
...まともに10年間、一緒に過ごすこともなかったものね。
食事とお風呂、睡眠以外は、弟と顔を合わせることなんてできなかったから。
だけど、弟は...。
急に足を止めた私の顔を、弟が不思議そうに覗き込んでくる。
おっといけない。
考えごとをすると、すぐに立ち止まってしまうのが私の癖なんだ。
直さなきゃね。
なんで弟は、私を目の敵にしなかったんだろう。
ろくに話せてもいなくて、嫌われていたのかと思っていたのに。
昔と同じように接してくれるなんて、思っていなかった。
今思ったら、弟は店内に入るのは平気なんだろうか。
普通なら恥ずかしがるはずだけど、
やっぱり気にしないんだね。
そりゃそっか、こいつだもん。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!