玄関にて。
学校へと戻る私と弟を、お姉ちゃんが見送りにきてくれる。
...またしばらく会えなくなっちゃうな。
次に会うのはお正月かな。
その前には仮免再試験だし、頑張らないと。
お互いに会話をしたあとで、父が言った。
父が車の方へと向かっていくのを見てから、私はもう一度お姉ちゃんの方に向き直った。
そう言われて、私たちは頷く。
家の前には、父のものであろう車が止まっていた。
後部座席に弟と乗り、バタン、とドアを閉める。
とたん、弟が少し顔を顰めた。
ぼそりと呟いた弟の頭を無言で引っぱたくと、弟は小さく声を上げた。
そういうなり、車を走らせた。
沈黙がながれる。
...気まずい。
突然声をかけられて、驚きのあまり声が裏返る。
だってお父さん、口を開けば焦凍焦凍ばかりだもの。
なんで急に...。
私の脳内はハテナマークでいっぱいになる。
重大な頼み...なんだろう。
てか、その重大なものを私に頼んでいいのかな。
弟にでも頼めばいいのに。
威嚇する弟を宥めていると、父が自信満々といったように口を開く。
弟はまだ疑わしい目を向けていたけれど、渋々頷く。
ほんとになんだろ、頼みって...。
***
車から降りて、父が頼みたいと言っていた内容を聞いて、私は思わず真顔になる。
なるほど、納得だ。
どうして弟じゃなくて私に頼んだのか、やっと納得できたよ。
こういうわけだ。
携帯を借りてぱぱっ、と弟のアカウントを登録し、父に返す。
父は自分の携帯に弟のアカウントが登録されているのを見ると、満足そうに笑った。
単純かよ。
父の言葉を聞いて走り出しながら、私は考えた。
あの親バカっぷりは、たぶん治せないだろうなと。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。