微睡の中、聞こえてきた微かな声に意識を浮上させる。
ぼーっとする頭のまま重い瞼を開けると、俺の横で姉が小さく呻き声を上げていた。
魘されている。
俺は寝転がったまま、姉に向かって声をかけた。
とにかく起こさなきゃ。
そう思って顔を覗き込むようにして声をかけてみるが、姉は一向に目を覚まさない。
体を揺さぶろうとして伸ばしかけた手を、思わず止める。
自分の名前が呼ばれたことに驚くが、今はそんな場合じゃない。
早く目覚めさせてやらねぇと。
そう思って声をかけ続ける。
耐えきれずに、側にあった手をキュッと握る。
すると姉はようやく俺に気がついたのか、目を薄く開いた。
夢現のままぼんやりとした目で俺を見つめる姉に、俺は小さく息を吐いてからその瞳にたまった涙を指でそっと拭う。
こく、と小さく頷くと、姉は俺を見つめる。
そう言って頭に手を乗せると、姉は目を伏せた。
長い睫毛が、瞳に影を落とす。
迷惑なんて、一度も思ったことはない。
俺の言葉に、姉は顔を上げた。
少し迷ったあと顔を姉に寄せ、そのまま額に口付ける。
姉は驚いたようにしばらく俺を見つめていたが、やがて口元を緩ませた。
姉は風邪を引くと弱くなる。
涙脆くなるのも、きっとそのうちのひとつのことなのだろう。
昔からお母さん以外には、あんまり泣き顔とか見せることなんてなかったから。
今こうして泣きたい時に泣いてくれるのは、いい事なのか、悪いことなのか...。
...いや、関係ない。
再び涙を零した姉を抱きしめ、安心させるために背中をさすって頭を撫でる。
昔のお前を抱きしめることはできないけれど、今のお前を抱きしめてやることはできる。
すすり泣きが穏やかな寝息に変わるまで、ずっと、ずっと...。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。