第310話

No.309 side轟焦凍
10,724
2021/01/04 22:35
あなた
ぅ、あ...







微睡の中、聞こえてきた微かな声に意識を浮上させる。







あなた
ごめ、なさ...っ







ぼーっとする頭のまま重い瞼を開けると、俺の横で姉が小さく呻き声を上げていた。





魘されている。





俺は寝転がったまま、姉に向かって声をかけた。







轟焦凍
おい、あなた。...おい







とにかく起こさなきゃ。





そう思って顔を覗き込むようにして声をかけてみるが、姉は一向に目を覚まさない。







あなた
ごめん、なさい...しょうと...
轟焦凍







体を揺さぶろうとして伸ばしかけた手を、思わず止める。







あなた
私の...せい、でっ
轟焦凍
!...あなた、起きろ。あなたってば







自分の名前が呼ばれたことに驚くが、今はそんな場合じゃない。





早く目覚めさせてやらねぇと。





そう思って声をかけ続ける。







轟焦凍
あなたっ、起きてくれよ







耐えきれずに、側にあった手をキュッと握る。





すると姉はようやく俺に気がついたのか、目を薄く開いた。







轟焦凍
あなた、大丈夫か?
あなた
しょう、と...?







夢現のままぼんやりとした目で俺を見つめる姉に、俺は小さく息を吐いてからその瞳にたまった涙を指でそっと拭う。







あなた
ぁ...ごめん、私、また焦凍に
轟焦凍
気にすることねぇよ。大丈夫か?







こく、と小さく頷くと、姉は俺を見つめる。







あなた
ごめんね、起こしちゃって...。
轟焦凍
気にすんなよ。大丈夫だ







そう言って頭に手を乗せると、姉は目を伏せた。





長い睫毛が、瞳に影を落とす。







あなた
今日、焦凍に迷惑かけてばっかりだね。私
轟焦凍
そんなことねえ






迷惑なんて、一度も思ったことはない。





俺の言葉に、姉は顔を上げた。





少し迷ったあと顔を姉に寄せ、そのまま額に口付ける。







轟焦凍
あなたは俺に迷惑なんてかけてねぇし、俺だってあなたが迷惑だなんて思ってねぇ。勝手に決めるなよ







姉は驚いたようにしばらく俺を見つめていたが、やがて口元を緩ませた。







あなた
ごめんね、ありがとう...っ
轟焦凍
おう。だから今は安心して眠れよ
あなた
うん、っ







姉は風邪を引くと弱くなる。





涙脆くなるのも、きっとそのうちのひとつのことなのだろう。





昔からお母さん以外には、あんまり泣き顔とか見せることなんてなかったから。





今こうして泣きたい時に泣いてくれるのは、いい事なのか、悪いことなのか...。





...いや、関係ない。







あなた
もう、悪夢見るのやだよ...
轟焦凍
安心しろ、もう見させねぇから。俺が追っ払ってやるから







再び涙を零した姉を抱きしめ、安心させるために背中をさすって頭を撫でる。





昔のお前を抱きしめることはできないけれど、今のお前を抱きしめてやることはできる。





すすり泣きが穏やかな寝息に変わるまで、ずっと、ずっと...。

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