横で黙々とオムライスを頬張っていると、弟が声をかけてくる。
なにがしたいんだ。
そんなに食べて、よく飽きないよね。
横でギャイギャイうるさい弟の口に、黙れと言わんばかりにオムライスを突っ込んでやった。
ふん。
弟が学食で蕎麦以外を食べているところなんて、見たことがない。
今までは家で野菜は食べるから、まあいいや、って思っていたんだけど。
寮だとそうはいかないからね。
学食でもちゃんと栄養取ってもらわないと。
そう言うと、弟は不満げな表情を私に向ける。
そんな顔しても、無駄なんだからね。
女心というものを知らんのか、こいつは。
ムッ、としている弟に背を向け、私は教室に向かって歩き出す。
もしファンクラブの人に見つかったら、たまったもんじゃない。
私は平和主義なんだから。
争いごとに巻き込まれるのはごめんだよ。
階段を上がっている途中で腕を掴まれ、その拍子にバランスを崩しかける。
弟が慌てて支えてくれたおかげで助かったけれど、元の原因はこいつだ。
学校では突き放す。
いつもこうだ。
プライベートと学校じゃあ、態度を変えなきゃいけない。
私の平和な高校生活のためだ。
弟の言葉を聞き、私はさっさと立ち去ろうと階段を上がる。
が、まるで後ろ髪を引かれたようだった。
ふと、振り返る。
弟は、眉を下げて顔に影を作っていた。
別にその表情自体は、珍しい表情でもない。
けれど、心の中のどこかに引っかかっているような、そんな感覚を覚える。
ふと、思う。
幼い頃、私がもう少し早く手を差し伸べられていたら。
弟の笑顔が消えることはなかったのかも、なんて。
ただひとつ確かなことは、私はそういう顔は見たくないの。
向き直って言えば、弟は嬉しそうにオッドアイを細める。
いそいそと隣まで上がってきて、階段を二人で上る。
そういう顔を見たくないと言ったのは、決して自惚れているわけじゃない。
単なる事実だ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!