第151話

No.151
14,923
2020/11/03 14:12
轟焦凍
そのオムライス、美味いか?
あなた
うん








横で黙々とオムライスを頬張っていると、弟が声をかけてくる。





なにがしたいんだ。







轟焦凍
俺も食いてぇ
あなた
あんたは蕎麦あるでしょーが
轟焦凍
いるか?
あなた
いらない








そんなに食べて、よく飽きないよね。







轟焦凍
ひとくち食いてぇ
あなた
あーもう。ほら
轟焦凍
んむ、っ








横でギャイギャイうるさい弟の口に、黙れと言わんばかりにオムライスを突っ込んでやった。





ふん。







轟焦凍
うめぇな
あなた
蕎麦ばっかりじゃなくて、野菜もちゃんと食べなさいよ。ほら、サラダ
轟焦凍
お、ありがとな








弟が学食で蕎麦以外を食べているところなんて、見たことがない。





今までは家で野菜は食べるから、まあいいや、って思っていたんだけど。





寮だとそうはいかないからね。





学食でもちゃんと栄養取ってもらわないと。







あなた
ご馳走様。じゃあ私、戻るね
轟焦凍
一緒に行かねえのか?
あなた
だから、一緒に行動しない、って言ってるでしょ








そう言うと、弟は不満げな表情を私に向ける。





そんな顔しても、無駄なんだからね。







轟焦凍
なんでだ
あなた
見られたら困るからよ。噂とかになったらどうすんの
轟焦凍
別に気にしねぇ
あなた
私が気にするの








女心というものを知らんのか、こいつは。





ムッ、としている弟に背を向け、私は教室に向かって歩き出す。





もしファンクラブの人に見つかったら、たまったもんじゃない。





私は平和主義なんだから。





争いごとに巻き込まれるのはごめんだよ。







轟焦凍
待てよ
あなた
わっ、と
轟焦凍
うおっ。危ねぇ、








階段を上がっている途中で腕を掴まれ、その拍子にバランスを崩しかける。





弟が慌てて支えてくれたおかげで助かったけれど、元の原因はこいつだ。







あなた
なに?危ないじゃない
轟焦凍
悪ぃ...。用は特にねぇんだけど、
あなた
なら離して








学校では突き放す。





いつもこうだ。





プライベートと学校じゃあ、態度を変えなきゃいけない。





私の平和な高校生活のためだ。







轟焦凍
...悪ぃ








弟の言葉を聞き、私はさっさと立ち去ろうと階段を上がる。





が、まるで後ろ髪を引かれたようだった。





ふと、振り返る。





弟は、眉を下げて顔に影を作っていた。





別にその表情自体は、珍しい表情でもない。





けれど、心の中のどこかに引っかかっているような、そんな感覚を覚える。





ふと、思う。





幼い頃、私がもう少し早く手を差し伸べられていたら。





弟の笑顔が消えることはなかったのかも、なんて。





ただひとつ確かなことは、私はそういう顔は見たくないの。







あなた
...屋上
轟焦凍
あなた
屋上、行かない?"一緒に"








向き直って言えば、弟は嬉しそうにオッドアイを細める。





いそいそと隣まで上がってきて、階段を二人で上る。





そういう顔を見たくないと言ったのは、決して自惚れているわけじゃない。





単なる事実だ。

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