第87話

No.87
18,413
2020/09/23 13:04
敵(ヴィラン)
返せ?妙な話だぜ。爆豪くんは誰のものでもねぇ。彼は彼自身のものだぞ、エゴイストめ
あなた
なにを、言ってるの?








ヴィランの言葉に、私は思わず反論した。







あなた
確かに爆豪くんはものじゃない。だけど、私たちの大切なクラスメイトなの、仲間なの。仲間を返せ、って言うのは、当然のことじゃないの!!?








そう言えば、ヴィランはパチパチと手を叩き始める。







敵(ヴィラン)
仲間想いなんだねぇ、素晴らしい。君は確か、リストに居たな。轟あなただったか








彼の言葉と行動は、私たちを嘲笑っているようにしか思えなかった。







緑谷出久
返せよ!!
轟焦凍
退け!








弟がすかさず氷結を出し、攻撃を仕掛ける。





が、ヴィランはそれを難なく躱し、あたかも何事もなかったかのように別の木に移った。







敵(ヴィラン)
我々はただ、凝り固まってしまった価値観に対し、それだけじゃないよと道を示したいだけだ。今の子らは、価値観に道を選ばされている
障子目蔵
爆豪だけじゃない、常闇もいないぞ!








常闇くんの姿が見当たらないことに気がついた障子くんが、私たちに言った。





三人が気がつかなかったってことは、音もなく二人を連れ去ったってことになる。





この人の個性、いったいなんなんだ。







轟焦凍
わざわざ話しかけてくるとは、舐めてんな
敵(ヴィラン)
元々エンターテイナーでね、悪い癖さ。常闇くんはアドリブで貰っちゃったよ








じゃあ今持っているビー玉は、常闇くんってことになるのか。





ヴィランはもう一つビー玉を取り出し、先程と同じように弄ぶ。








敵(ヴィラン)
ムーンフィッシュ、歯刃の男な。彼はあれでも死刑判決控訴棄却されるような生粋の殺人鬼だ。それをああも一方的に蹂躙する暴力性、彼も良いと判断した
緑谷出久
この野郎、もらうなよ!!
障子目蔵
緑谷、落ち着け








怒りのあまり、興奮状態の緑谷くん。





そんな緑谷くんを、障子くんがなだめる。







轟焦凍
麗日こいつを頼む!
麗日お茶子
うん!








背負っていた男子を、弟はお茶子ちゃんに預ける。





そのあと弟は、最大火力で氷結をヴィランに向かって発動させた。







敵(ヴィラン)
悪いね。俺ァ逃げ足と欺くことだけが取り柄でよ!ヒーロー候補生なんかと戦ってたまるか








が、ヴィランはそれを先程のように難なく躱し、空中に浮く。





逃げ足と欺くことだけが取り柄だなんて、なんて野郎だ。





ただの卑怯者にすぎない。







敵(ヴィラン)
開闢行動隊、目標回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!予定通り5分以内に回収地点へ向かえ!
轟焦凍
幕引き、だと...!?
緑谷出久
ダメだ!
あなた
追いかけなきゃ!行こう!
轟焦凍
ああ、させねぇ!絶対逃がすな!








回収地点へと向かうヴィランを、私たちは全速力で追いかける。





だけど、







轟焦凍
畜生、速ぇあの仮面!








木から木へと移りながら素早く移動するヴィランには、私たちの足ではとても追いつけなかった。





どうしよう、このままじゃ爆豪くんたちが...!







麗日お茶子
飯田くんがいれば...!
轟焦凍
くそっ、
緑谷出久
諦めちゃ、ダメだ。追いついて、取り返さなきゃ!
あなた
緑谷くん...








体中がぼろぼろの状態でも、助けなきゃいけないという思いが、彼の中にはある。





その気持ちが、私には痛いほど伝わってきた。







障子目蔵
しかしこのままでは離される一方だぞ!
緑谷出久
麗日さん、僕らを浮かして!
麗日お茶子
え?








なにをするつもりなの?





緑谷くんの言葉に、みんなが不思議そうな表情をする。







緑谷出久
そして浮いた僕らを、蛙吹さんの舌で思いっきり投げ飛ばして!
蛙吹梅雨
ケロ?
緑谷出久
障子くんは複製腕を広げて軌道を修正しつつ、僕らを牽引して!麗日さんは見えてる範囲でいいから、奴との距離を見計らって個性を解除して!
障子目蔵
なるほど、人間玉か








確かにいい提案だとは思うけど。





私は思わず口を挟んだ。







あなた
待って、緑谷くん。あなた、その怪我でまだ動くつもりなの!?








緑谷くんの怪我の状態は、さっきも言ったけど酷い。





気を失っていてもおかしくないくらいだ。







轟焦凍
緑谷、お前は残ってろ。痛みでそれどころじゃ...
緑谷出久
痛みなんか今は知らない!動けるよ、早く!!








いつもとは違う、緑谷くんの少しドスの効いた声。





本気、なんだ。





友を助けに行くためなら、自分がどんな状態でも友を優先する。





そんな人だったよね、緑谷くんは。

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