まて、なにを言い出すんだ。
ただでさえ恥ずかしいってのに。
そんな中、はっきりと名前を呼ばれる。
弟は私の耳元に唇を寄せ、囁いた。
一気に顔に熱が集まる。
女子たちは黄色い声を上げ、男子たちは歓声を上げる。
...峰田くんは、なぜか歯ぎしりしてるけど。
心臓に悪いよ、ほんとに...。
羞恥から顔を真っ赤にして手で顔を覆うと、弟が私を抱き上げたまま小さな声で言った。
そういう意味で言ったんじゃないんだよ。
私は顔から手を離して、弟を見つめる。
顔を真っ赤にしている私を見て、弟は大きく目を見開いた。
そう言うと、弟は私から目をそらして頬を紅潮させる。
ちょっと、なんであんたまで顔赤くしてんのよ。
そう言いながら私を降ろし、弟は手の甲で赤くなった顔を隠す。
...こんな時でもこいつは絵になるな、なんて考えちゃう私は馬鹿だ。
あーもう。
なんかみんなにやにやしてこっち見てるし。
一佳ちゃんはきょとんとしてるし。
穴があったら入りたいよ。
波動先輩の呼ぶ声が聞こえ、私と一佳ちゃんは返事をしてそちらの方に向かおうとする。
が、一佳ちゃんを追いかけようとする私の腕を、弟が掴んだ。
思わず振り返る。
弟は顔を赤らめたまま、私を見つめていた。
やがて、少しだけ私の腕を引っ張って自分の方へと寄せ、耳元で囁く。
そう言うと、弟は私から離れる。
私は弟を見て、ふっ、と口元を緩めた。
そう言ってから、私は波動先輩たちの方へと歩き出した。
口元が緩むのを抑えられないのは、弟には内緒だ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!