あの買い物をした日以降、CTが2人に
『これやりたいんだけど』や
『ここ行ってみたい』
ということを言う回数がぐっと少なくなっていた。
少し疑問に思いながら、今朝言われた
『お化粧上手になりたい』という
本人次第とも言える要望にお答えすべく本屋に来ていた。
CTの手を引いて連れてきたのは女性誌のコーナーだ。
ここでも彼女は目を輝かせ、近くの雑誌に次々手を伸ばしてパラパラとページを捲っていく。
CTが指す紙の中で男が微笑んでいた。
テレビに疎いリュウでも、彼が誰かは分かる。
容姿端麗。それでいて有名大学を卒業。
CTが指したのは、そんな国民的アイドルグループの1人。
この田舎町でもスーパーやコンビニに行けば柔らかく笑う彼と嫌でも目が合う。
そう言いながら、そのページを開いたまま雑誌をリュウの顔の前に合わせる。
呆れ声のリュウを無視して、次のページをぺラッと捲る。
見開きでジュエリーの広告になっていた。
雑誌の広告ページというものをじっくり見る人は多くはないだろう。
しかし、彼女は黙ってじっくりとそのページを見た。
ちらりと彼女の顔を見た。
開かれた目。輝く瞳。
ヒロはなるほどねぇ、と心の中で呟く。
それほど大きくない声で話しかけたのに、まるでお化けでも見たかのような反応をする。
どんぴしゃ、まさに"図星"。
CTの目が少し泳ぐ。
もう一度よく広告を見ると、写っているのは外国人の男女。
絡んだ2人の指には色違いの指輪がはめられていた。
さっきまで読んでいた雑誌と、もう1冊本を差し出した。
振り返ると、いつの間にか会計を済ませたリュウが袋を持って立っていた。
リュウに手を伸ばして袋を受け取ると、CTは嬉しそうに笑った。
ヒロは客のいないバーカウンターに肘をついた。
時刻は深夜2時。
草木も、そしてCTも眠っている頃。
頭を抱えて机に突っ伏して、後半なんてほぼ聞き取れないほど小さな声で呟いた。
大声で叫びたい。
しかし、誰にも聞こえず自分の中に閉じ込めてしまいたいこの感情。
目の前のアルコールで乱暴に流し込む。
2人は昼間の彼女の横顔を思い出す。
開かれた目。輝く瞳。
ヒロは自分の腕時計を軽くトントンと叩いた。
それを見てリュウも「確かに」と浮きかけた腰を落ち着かせた。
ヒロはニヤリと笑ってまたアルコールを流し込む。
つられるように、リュウも控えめにアルコールを押し込んだ。
いつか言われた『未成年…』という言葉がCTの声で再生される。
酔った頭にデコピンを食らって、リュウはわざとらしく『痛ぁ!』と声を上げた。
小突き合う2人を見守る月は何を思うのだろうか。
2人に想われているCTをみて、
もうだいぶ細くなった月は何を思うのだろうか。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。