第6話

18
2019/02/07 08:30
リュウ
ほら行くぞ
CT
あ、待って!…ごちそうさまでしたいってきます!
ヒロ
はいよーいってらー
そんなやり取りを毎朝続けて1週間経ったある日。
金髪と銀髪も見慣れてきた頃。



リュウがいつも通りひと足早く朝食を終え、入り口の扉を押し開ける。

慌ててCTがコートを掴んでその後を追いかける。


コートの袖を通して前を向こうとすると、グイッと腕を引かれた。



掴んだ腕を辿っていくと、リュウと目が合う。

口元で指を立てて『シー!』と言うと、リュウはゆっくり扉を押した。



隙間から外を覗くと、そこには見慣れない車が2台、リュウのバイクの傍に停まっていた。

それを確認して、音をたてぬようゆっくりと扉を閉めた。
ヒロ
どうした?
リュウ
知らない車が止まってるんすよ
ヒロ
あぁ?
ヒロはカウンター奥のパソコンの画面を確認した。

画面には駐車場の様子が映し出されている。
ヒロ
…怪しさしかねぇな
CT
なんだろう…
リュウ
おい…車から降りてるぞ
リュウは画面を指した。

車からスーツ姿の男が3人降りている。

そして3人とも、このバーの入り口に向かって歩いている。
ヒロ
あ、これやべぇやつだ
CT
なに?今やべぇの?
リュウ
やべぇよ、しーのこと探しに来た所員だろ
ヒロ
とりあえず、2人は上行ってろ。一応鍵掛けとけ。
リュウ
はい…あ、先輩は?
ヒロ
何とかする。
もしダメそうだったらその時は…ボスの名前使わせてもらう。
リュウ
………
ヒロ
いいから早く行け
リュウは、状況が分からずフリーズしているCTを抱えるようにして階段を駆け上がった。

鍵をかける音が響いて、ヒロは小さく息を吐いた。

画面を見ると、3人の男はちょうど扉に手をかけるところだ。


パソコンをシャットダウンするのと同時に扉が開いた。


男たちは容赦なく力強く扉を開けてきた。
ヒロは舌打ちをしたい気持ちをぐっと堪える。
??
ごめんください
ヒロ
すいません、まだ準備中なんすけど
カウンター席を拭きながら男たちに背を向けて答えた。
??
いえ、開店を催促しに来たのではなくて
ヒロ
ん?じゃあ、ご用はなんでしょ?
すると、1人がポケットから写真を差し出した。


(あぁ、やっぱりそうなんだな)


写真はCTのものだ。

ただ、この数日間ヒロが見てきたCTとは違い、
どこか暗く影のある目でレンズを睨んでいるようだった。
??
この女の子、見かけませんでしたか?
ヒロ
さあ…少なくとも俺は見たことないっすね
??
本当に?
ヒロ
本当に。
……なになに?ファイナルアンサーって言うタイプのやつだった?
??
…………それでいいんだな
(こいつら知ってるな…)


3人のうち2人は鋭い目で店中に目線を送り、
ヒロの目の前に立つ1人はこれもまた鋭い目で目の前の男の2つの目ん玉を凝視している。


その目線を遮るように、ヒロはわざとらしく深呼吸してニヤッと笑う。


再び前を向くと、こちらを睨む鋭い目と合う。
ヒロもその目を睨み返しながら口を開いた。




ヒロ
ファイナルアンサー


男も一瞬だけニヤッと笑った。
その瞬間、彼の目の奥が光ったようにも見えた。
??
………取り押さえろ!
ヒロ
ちょっと待った
??
…なんだ
ヒロ
俺の事を取り押さえたりして大丈夫なんだな?
??
何を訳の分からないことを
ヒロ
俺、あるグループのメンバーで。まあ、そんなお利口なグループじゃないんすけど。
そのグループのボス…誰だと思います?
??
そんなこと知らないしどうでもいいだろ!
ヒロ
…ここらじゃ知らない人はいない、齋藤組さいとうの3代目ですよ


"齋藤組"と聞いた3人の顔色が一気に変わる。
ヒロを押さえる手が緩まっていった。
??
…それを信じられる証拠は?
ヒロ
そうっすねー、電話でも掛けてみます?
『ボス』と表示された画面を男に突き出す。
??
……………
ヒロ
ファイナルアンサー?
??
………お前ら、撤収だ
その言葉でヒロの肩に乗せられていた手がスッと引っ込み、男たちは退散していく。


入ってきた時と同様、力加減を知らない腕で
扉を閉めた。


車のエンジン音が2つ。


しっかり聞いてから、ヒロは2階に向かって声をかける。
ヒロ
もういいぞー降りてこーい


5秒ほどあいてから鍵を開ける音が聞こえた。

2人はゆっくりと階段を降りて、
様子を伺うようにカウンター席にゆっくりと座った。
リュウ
なんて言われました?
ヒロ
やっぱり研究所の連中だった。しーのこと探してる。それと…
リュウ
はい?
ヒロ
何でかは分かんねぇけど、ここにしーがいるのアイツらは知ってるっぽいぞ。
CT
………どうして
リュウ
それは……ヤバいっすね
ヒロ
ああ。それでどうにもこうにもいかなくてな…有難くボスのお名前を使わせていただきましたよ。
CT
あの……
CTが遠慮がちに口を開いた。
CT
聞こうと思ってたんだけど、ボスってそんなにすごい人なの?
リュウとヒロは互いに顔を見合わせて、大きく頷いた。
リュウ
世界で1番敵に回したくない人
ヒロ
しー、齋藤組っていう有名な組があってな。あらゆる所に力をかけてるんだ。まあ、いい事もあれば悪い事もあるかもしれねぇが…
CT
齋藤組…
リュウ
ボスはそこの3代目。
ヒロ
そう。何がすごいって、あの歳で先代の力を借りずに自分の力で今の人脈を築いたことだ。だいたい二代目とか三代目は先代の力に甘えられるだけ甘える奴が多い。だからボスは一目置かれてるんだ。
リュウ
でも、齋藤組が未確認生物研究所に圧かけれないと意味無くないですか?
ヒロ
いや、なんとかなる。実は、未確認生物研究所のバックにヤバい集団がついてるらしい。そこと齋藤組は対立してるんだと。
CT
ヤバい集団ってなに?
ヒロ
正確なことは俺も知らねぇけど…ありとあらゆる手で世界中から金を集めまくってるらしい
リュウ
未確認生物研究所も中身真っ黒ってことか
ヒロ
しーがここに居るのを知ってたのも、この街のどこかしらにその集団の奴がいて後つけられてたんだろうなぁ…
リュウ
しー、ひとつ聞いていいか?
CTは頷いてコーヒーカップを置いた。

カップの中には、いつの間にか飲めるようになっていたブラックコーヒーが半分ほど残っている。
リュウ
未確認生物研究所ってどんな所なんだ……しーがすごい早さで成長していってるのと関係あるのか?


CTは、『あぁ、バレてたんだ』と心の中で呟いた。




それゃあ彼らはCTを間近で見ているのだから、髪や爪の伸びる早さとか味覚の変化とかには気づきやすいだろう。

きっと、あの月夜から少しは不思議に思っていたはずだ。

それを今まで、一言も問わず、"普通の人間"として接してくれた。


心の中が感謝の想いで溢れてしまいそうなほど、たくさん助けてもらったのだ。



聞かれたら答えなくてはいけない。
CT
あのね、
CTは2人の目をゆっくり見つめて、話し始める。

今朝は天気がいい。
太陽も彼女の背中を押すように、
店内には日差しが差し込んできた。

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