そんなやり取りを毎朝続けて1週間経ったある日。
金髪と銀髪も見慣れてきた頃。
リュウがいつも通りひと足早く朝食を終え、入り口の扉を押し開ける。
慌ててCTがコートを掴んでその後を追いかける。
コートの袖を通して前を向こうとすると、グイッと腕を引かれた。
掴んだ腕を辿っていくと、リュウと目が合う。
口元で指を立てて『シー!』と言うと、リュウはゆっくり扉を押した。
隙間から外を覗くと、そこには見慣れない車が2台、リュウのバイクの傍に停まっていた。
それを確認して、音をたてぬようゆっくりと扉を閉めた。
ヒロはカウンター奥のパソコンの画面を確認した。
画面には駐車場の様子が映し出されている。
リュウは画面を指した。
車からスーツ姿の男が3人降りている。
そして3人とも、このバーの入り口に向かって歩いている。
リュウは、状況が分からずフリーズしているCTを抱えるようにして階段を駆け上がった。
鍵をかける音が響いて、ヒロは小さく息を吐いた。
画面を見ると、3人の男はちょうど扉に手をかけるところだ。
パソコンをシャットダウンするのと同時に扉が開いた。
男たちは容赦なく力強く扉を開けてきた。
ヒロは舌打ちをしたい気持ちをぐっと堪える。
カウンター席を拭きながら男たちに背を向けて答えた。
すると、1人がポケットから写真を差し出した。
(あぁ、やっぱりそうなんだな)
写真はCTのものだ。
ただ、この数日間ヒロが見てきたCTとは違い、
どこか暗く影のある目でレンズを睨んでいるようだった。
(こいつら知ってるな…)
3人のうち2人は鋭い目で店中に目線を送り、
ヒロの目の前に立つ1人はこれもまた鋭い目で目の前の男の2つの目ん玉を凝視している。
その目線を遮るように、ヒロはわざとらしく深呼吸してニヤッと笑う。
再び前を向くと、こちらを睨む鋭い目と合う。
ヒロもその目を睨み返しながら口を開いた。
男も一瞬だけニヤッと笑った。
その瞬間、彼の目の奥が光ったようにも見えた。
"齋藤組"と聞いた3人の顔色が一気に変わる。
ヒロを押さえる手が緩まっていった。
『ボス』と表示された画面を男に突き出す。
その言葉でヒロの肩に乗せられていた手がスッと引っ込み、男たちは退散していく。
入ってきた時と同様、力加減を知らない腕で
扉を閉めた。
車のエンジン音が2つ。
しっかり聞いてから、ヒロは2階に向かって声をかける。
5秒ほどあいてから鍵を開ける音が聞こえた。
2人はゆっくりと階段を降りて、
様子を伺うようにカウンター席にゆっくりと座った。
CTが遠慮がちに口を開いた。
リュウとヒロは互いに顔を見合わせて、大きく頷いた。
CTは頷いてコーヒーカップを置いた。
カップの中には、いつの間にか飲めるようになっていたブラックコーヒーが半分ほど残っている。
CTは、『あぁ、バレてたんだ』と心の中で呟いた。
それゃあ彼らはCTを間近で見ているのだから、髪や爪の伸びる早さとか味覚の変化とかには気づきやすいだろう。
きっと、あの月夜から少しは不思議に思っていたはずだ。
それを今まで、一言も問わず、"普通の人間"として接してくれた。
心の中が感謝の想いで溢れてしまいそうなほど、たくさん助けてもらったのだ。
聞かれたら答えなくてはいけない。
CTは2人の目をゆっくり見つめて、話し始める。
今朝は天気がいい。
太陽も彼女の背中を押すように、
店内には日差しが差し込んできた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。