第4話

想い
24
2019/01/31 14:17
リュウはあるバーの前でバイクを停めた。

日没前のバーは、息を潜めているようにひっそりと
佇んでいる。


"CLOSE"と吊るされた扉を勢いよく押すと、
カウンターに見慣れた顔の銀髪の男が立っていた。
リュウ
ヒロ先輩!ちょっと上借りていいですか
ヒロ
いいけど、1つ事情聴取しなきゃなんねえんだわ
ヒロは、拭いていたグラスをそっと置いて顔を上げた。
ヒロ
お前、女の子と一緒にバドミントンしてたろ?
リュウ
………見てたんですか
ヒロ
いや、そこは正直どうでもいい。
問題なのはあの女の子だ。
リュウ
彼女が?
ヒロ
これ見ろ


手渡されたタブレットを見る。




────────────────

行方不明者情報

・服装、持ち物
·上下同じ色のスウェット
·黒色のコート
·小さめのボストンバッグ

・特徴
·髪は長め
·背はそれほど高くなく、かなり痩せ型
·15歳

·
·
·
スクロールすると写真が出てきた。
それは紛れもなく、今日1日行動を共にしている女の子だ。


そして、リュウは最後の1文に目を疑った。


"彼女は未確認生物研究所の特別研究員ですので、見つけ次第本研究所までご連絡ください。
【電話番号:03-xxx-xxxx】"
リュウ
未確認生物研究所?
ヒロ
あそこはやばい噂しかねぇぞ。
しかもここ見ろ。懸賞金まで用意してある。
リュウ
2億?!
ヒロ
"1人の女の子"の為にしちゃ金かけすぎじゃねえか?
リュウ
確かに
ヒロ
で、お前はなんでそんな子と遊んでいたんだろうねぇ?
リュウ
なんでって…
リュウは今日の朝のことを思い出す。


コーヒーでも買おうと公園に寄った。
自販機にお金を入れようとした時、近くに女の子が立っているのが見えた。
女の子は痩せていたからかどこか儚げで、
思わず声を掛けた。


ヒロ
…まあ無理には聞かねぇけど
リュウ
……
ヒロ
それで、とりあえずボスの所にどうするべきか聞きに行ったんだが
リュウ
…ボスの所にしーを差し出すつもりですか?
ヒロ
そんな怖い顔しなくても大丈夫だ。
ボスは『その子を守ってやれ』って。
リュウはホッと胸を撫で下ろす。
ヒロ
外で待ってるんだろ?危ねぇから早く連れてこい。その子からもちゃんと話聞かねぇとな
リュウ
先輩…ありがとうございます
礼をして扉の方に向かうと、ヒロがリュウの肩をガシッと掴んで耳元に口を寄せる。
ヒロ
あと、ボスが「リュウの恋は応援しないとな」って言ってたぞ
リュウ
…………
慌ててヒロの体を突き放す。
リュウを見るヒロの顔は、頬が緩みまくっていた。


そんな先輩は後回しにして、リュウはCTを店内に連れて来た。
ヒロ
初めまして。こいつの先輩のヒロって言います。
CT
………CTです
ヒロ
しーてぃー?
どっかの宇宙人みたいな名前だな…ま、いいや。
ちょっとあなたに聞かなきゃいけねえことがあって
CT
なんですか?
ヒロ
俺は別に敵じゃねえから安心して答えて欲しい。信じられなかったら答えなくて構わない。
お前は…未確認生物研究所から逃げてるのか?
彼女は困った顔をしてリュウを見た。
目が合うとリュウは頷いた。
CT
うん…逃げてる…
ヒロ
そうか、逃げてるのか。
なんで逃げてきたんだ?
CT
私、やりたい事何もさせてもらえなかったの。もう15年も生きてるのに。
私の本当の寿命はとても短くて…あそこにいれば何ヶ月も延命できるんだけど、延命しても意味ないの。
いつの間にかCTの目に涙が溜まっていた。
金と銀の頭がぼやけて見える。
CT
だから、私は死ぬために外に出た。
死ぬ日の為に、やりたい事たくさんやって、そうやって生きたくて外に出たの。
ヒロ
そうか……そんなに強い想いでここに居るんだな
ヒロはそう言って微笑むと、ポケットの中から鍵を取り出した。
それを『はい』と差し出す。
ヒロ
そこの入り口の鍵と、2階の部屋の鍵。
しっかり掛けとけ。
いつ誰が連れ戻しに来るか分かんねぇぞ。
CT
ありがとう…!
ヒロ
…ほら、ちょっと疲れただろ?少し寝てこい
ヒロはCTの背中を押し、CTは頷いて階段を上っていった。



ヒロ
リュウ
リュウ
はい?
ヒロ
あの子ちゃんと守ってやんねぇとな…
リュウ
…そうですね
肩をポンポンと叩いた先輩の頬を涙が伝っていた。

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