春樹が航にハサミを渡した。
困惑している私をよそに、航は手際よく私の前髪を整え始めた。
前髪を整え終えると、春樹が私の顔を覗いた。
春樹は不満そうに首を傾げ…私のかけていた眼鏡を外した。
変装を取り除かれてしまい、内心焦ってしまう。
満足そうに笑いながら言うと、春樹が抱きしめてきた。
嬉しそうに私を抱きしめる春樹を愛しく思う。
変装を取った顔を見たクラスメイトが騒ぎ始めた。
聞こえてくるのは…今までにない、私を褒める言葉。
佑美とそっくりなこの顔を見て驚いているようだ。
顔を赤くして私を見てくる視線が目障りでしかない。
顔を見た途端の反応の違いに、苛立ちしかない。
頭の中で理解できていないのか、確認してきた高嶺の耳は真っ赤になっている。
私が冷たく言うと、傷ついたような顔をした。
所詮、顔さえよければ、みんな態度を変えるのか。
春樹と航が、軽蔑の目で高嶺やクラスメイトを見る。
しかし、誰もそれに気づくことなく、佑美と同じ顔をしている私を食い入るように見てくる。
心の奥が冷えていくのが分かる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!