第49話

航と白銀
2,245
2019/11/26 10:28

永瀬の声で下っ端の1人が駆け出し、勢いをつけたまま私の腹を蹴り飛ばした。

受け身をしなかった私は、1mくらい飛ばされ、
地面に倒れた。
白銀(下っ端)
ヒューヒュー、もっとやれ!
白銀(下っ端)
やーれ!やーれ!やーれ!
周りで見ていた下っ端は興奮こうふんした様子でガヤを入れてくる。
白銀(下っ端)
佑美さん、いつもあざがあるんだよね
白銀(下っ端)
お前が傷つけてんだろ?
1人が倒れている私の手を思いきり踏みつける。
白銀(下っ端)
おい、起きろよ
1人が胸倉むなぐらを掴み、無理やり私を立ち上がらせる。

襟元えりもとをしめつけられて、息ができない。


こんな奴らに殴られても反抗できないことに苛立ちがつのる。
松原 佑
松原 佑
(…この姿でなければ、白銀ごと潰してやるのに)
目の前の男がこぶしを後ろに引き、私の顔に向けて勢いよく放ってきた。


顔を殴られたら、春樹が怒りそうだなと思った。
だけど、私は抵抗する気はなく、目を閉じて痛みが走るのを待った。














横山 航
横山 航
やめろ。
目を開けると、私の顔寸前すんぜんで拳が止まっていた。

それほど大きな声ではなかったが、この場にいるみんなの動きが止まった。
白銀(下っ端)
えっ、航さん、?
吉田 陽太
吉田 陽太
航?
永瀬 湊
永瀬 湊
…どういうことだ?
困惑した言葉が、あちこちから聞こえてくる。

そんな言葉には目もくれず、航はこちらへ近づいてくる。
無言のまま下を向き表情は見えないけど、怒っているのだろうと分かる。
横山 航
横山 航
退
白銀(下っ端)
へ、航さん?
私の胸倉を掴んでいる男の手を退けると、航は目の前の男を蹴り飛ばした。

他の4人もあっという間に蹴散らした。
横山 航
横山 航
悪い、限界だった
やっと見えた航の顔は申し訳なさそうに眉をひそめている。
余裕がないのか、いつもの緩い口調もない。

そんな顔をされたら何も言えない。

私のことを考えて動いてくれて、航にはむしろ感謝している。

それなのに、そんな顔をさせている私は最低だ。
松原 佑
松原 佑
ごめん、ありがとう
永瀬 湊
永瀬 湊
おい、航。
永瀬 湊
永瀬 湊
どういうことか説明しろ
私を助けたということは、白銀を裏切ったということ。

永瀬は当たり前だが、怒っている。
私への制裁を邪魔じゃまされたことで更に苛立っているのだろう。
航は振り返ると、言い捨てるように言った。





横山 航
横山 航
俺、白銀やめるわ

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