永瀬の声で下っ端の1人が駆け出し、勢いをつけたまま私の腹を蹴り飛ばした。
受け身をしなかった私は、1mくらい飛ばされ、
地面に倒れた。
周りで見ていた下っ端は興奮した様子でガヤを入れてくる。
1人が倒れている私の手を思いきり踏みつける。
1人が胸倉を掴み、無理やり私を立ち上がらせる。
襟元をしめつけられて、息ができない。
こんな奴らに殴られても反抗できないことに苛立ちが募る。
目の前の男が拳を後ろに引き、私の顔に向けて勢いよく放ってきた。
顔を殴られたら、春樹が怒りそうだなと思った。
だけど、私は抵抗する気はなく、目を閉じて痛みが走るのを待った。
目を開けると、私の顔寸前で拳が止まっていた。
それほど大きな声ではなかったが、この場にいるみんなの動きが止まった。
困惑した言葉が、あちこちから聞こえてくる。
そんな言葉には目もくれず、航はこちらへ近づいてくる。
無言のまま下を向き表情は見えないけど、怒っているのだろうと分かる。
私の胸倉を掴んでいる男の手を退けると、航は目の前の男を蹴り飛ばした。
他の4人もあっという間に蹴散らした。
やっと見えた航の顔は申し訳なさそうに眉を顰めている。
余裕がないのか、いつもの緩い口調もない。
そんな顔をされたら何も言えない。
私のことを考えて動いてくれて、航にはむしろ感謝している。
それなのに、そんな顔をさせている私は最低だ。
私を助けたということは、白銀を裏切ったということ。
永瀬は当たり前だが、怒っている。
私への制裁を邪魔されたことで更に苛立っているのだろう。
航は振り返ると、言い捨てるように言った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。